「せ、先生・・・・。なんですか?これは」

僕の震えた声に、烏羽先生は首を傾げていた。
まるで、なんのことか分かっていないような表情。

黒板には昨日と同じ、瑠璃の悪口が堂々と書かれていると言うのに、それが先生の反応なのだろうか。

もし仮に烏羽先生が瑠璃のことが嫌いだとしても、教師として放っておいてもいいのだろうか。

・・・・・・。

いや、違う。
そうじゃない。

烏羽先生の右手にはチョークが握りしめられている。
何より、僕は烏羽先生が黒板に何かを書いていた所を見ている。

それに担任でも副担任でもない烏羽先生が朝早くから僕らの教室にいるのもおかしい。

「烏羽先生が、瑠璃の悪口を書いたのですか?」

そう僕が言ったら、烏羽先生の影が動いたような気がした。
まるでカラスのような真っ黒な翼にも見えて、今はただただ不気味だった。

同時に烏羽先生は不気味な笑みを見せる。

「バレちゃったら仕方ないか・・・・」

そして僕は、その低く不気味で怖い烏羽先生の声に息を飲んだ。

だって理解できなかったから。
『なんで烏羽先生がこんなふざけた真似をしているだ』って思ったから。

なんで烏羽先生が瑠璃をいじめるような悪口を黒板に書いているのか、僕は全く理解が出来なかったから。

「なんで、なんで?どうしてそんなことをするんですか?と言うか烏羽先生は『いじめが許せない』って言っていたじゃないですか!」

声を張る僕に、烏羽先生は即答で答えた。

「山村、悪い。悪いが俺も我慢の限界だ。もう黙ってお前がいじめられるのを見ているのは限界だ」

烏羽先生は投げ捨てるようにチョークを置くと、真剣な眼差しで僕を見つめていた。

そういえばダンススクールに入る交換条件として烏羽先生は、『僕の抱える問題も知恵出すから』と言っていた気がする。

それがこれだったら、僕は本気で烏羽先生に怒る。
瑠璃をいじめたり、『やり返してもていい』なんて僕は一言も言ってないし。

「だからと言って、こんなことは」

「だからこそだよ」

僕が話そうとする言葉を分かっているかのように、烏羽先生は答える。
その間も烏羽先生の真剣な表情は一切変わらない。