ルビコン

明日から二日間、みんなが待ちに待った秋祭りが開催される。
早朝だというのに街の雰囲気は少し慌ただしく、もう翌日の準備をする人もいる。
テントを立てたり、大きな舞台を作ってくれる人。

そんな大人達の姿に『本当に忙しそうだ』と僕は思った。

早朝の中、僕は少し早めに家を出る。
理由としてはポストに手紙を入れるため。

晩御飯の後も、お姉ちゃんと一緒に麦への手紙を考えていた。
かなり時間がかかったけど、なんとか一つの文章にまとめられることが出来た。

あとはこの手紙を麦が読んでくれれば問題ない。
返事も返ってきたら嬉しいけど、今はそこまで期待していない。

だから麦の手紙の内容も返事を待つような内容ではなく、僕の現状だけを書いた。
『僕は元気にしている』とか、『地元の秋祭りで僕はダンサーデビューをする』とか。

僕のことだけをひたすら書き続けた。

ただ今は麦に今の僕の存在を知らせたい。
『極度の人間不振に陥った』って聞いたけど、それだったら僕が麦を助けたい。

もしかしたら僕の存在を忘れているのかもしれないけど、それならそれでまた関係を築き上げたい。

そしてそれは麦だけじゃない。
瑠璃も同じだ。関係が壊れてしまったなら、またやり直したらいいだけ。

行動するのは難しいかもしれないけど、行動しないと意味がない。
瑠璃と向き合わないと意味がない。

でもポストに手紙を入れ終えたのはいいけど、家を出るのが少し早過ぎたみたいだ。
いつもはホームルームギリギリに登校する僕だが、ホームルームの一時間に来てしまった。

教室にはクラスメイトはまだ来ていない。
どうやら僕が一番みたいだ。

でも教室には先生がいる。
担任の先生ではないけど、烏羽先生が黒板に何かを書いていた。

と言うか、どうして烏羽先生が教室に?
副担任でもないのに。

何を書いているのだろうか?

「烏羽せ」

思わず先生を呼ぶ僕の声が途切れてしまった。
目の前の衝撃的な光景に僕は理解に苦しんだ。

「なんだ山村か。おはようさん。どうした?何を驚いている」

何事もないように、烏羽先生は僕に笑顔を見せている。

それがまた僕の心を苦しめた。