「父親が酒を飲むと暴れるらしい。中学生の娘に対して『酒を買ってこい』って。母親は瑠璃を置いて逃げてしまったから、瑠璃に味方はいない」

「それ、本当なの?いつから?」

「小学生三年からって」

淡々と答える砂田の表情は変わらない。
いつも通り無愛想な砂田。

友達の辛い現実を、何も関心ないように答えている。

一方の僕は自分自身を責めた。

小学生三年生と言ったら、瑠璃とよく遊んでいた頃だった。
いつも二人でふざけあって、『悩みなんてありません』と言っているような笑顔を瑠璃は見せてくれたのに。

その頃に、父親に虐待を受けていた?
でも僕にはそうには思えなかった。

だって僕と麦の前ではいつも笑っていたじゃないか!

・・・・・・・・。

結局、僕は瑠璃のことを何も知らなかったんだ・・・・。

「なんで言ってくれなかったのさ瑠璃」

僕はそう呟くと同時に、心の底から悔しさが溢れ出す。
『どうして当時の僕は知らない顔をしていたんだ』と、僕は自分に腹が立つ。

でもその僕の気持ちを読み取ったのか、砂田は言葉を返す。
とても落ち着いた、中学生とは思えないけれの言葉。

「言いたくないさ。誰だって自分の辛い所は他人に見せたくない。それが親であったり親友であったら、なおさら」

「・・・・砂田はいつから知っているの?」

「中学入学してから。泣きながら俺の所に助けを求めに来たから」

「瑠璃は言ったんだ。砂田に」

自分でそう呟くと同時に、さらに僕の中に悔しさ込み上げてくる。
まるで壊れた蛇口のように、止めようとしても激しく流れる水のように。

やっぱり、『もう瑠璃の心の中では僕、山村小緑は友達じゃないんだ』って思った。
『自分が追い詰められているのに、友達だった僕に相談して来なかったんだ』って思ったら、悔しかった。

砂田は続ける

「だから、瑠璃の精神はまともじゃない。人を蹴落とすのも、今の自分を保つため。山村をいじめたのも一緒の理由。変わってしまった山村に腹がったのが原因だけど、それと同時に誰かを踏みにじらないと気が済まないんだろう」

砂田の話を聞いて、確かに瑠璃の事が可哀想だと思う。
大好きな人がいじめられて転校してしまって、自分は親友に本当の事を言えずに父親から虐待を受ける。

僕も似たような家族間の関係があるから、気持ちは痛いほどわかる。

でもその砂田の言った言葉は全く理解できない。
絶対に間違っている。

「バカみたい」

そう小さく呟いた僕は大きなため息を吐いた。

そして僕も自分の意思を伝える。