「運動会の一件は想定外の出来事。ただでさえ山村の変わろうとする姿に腹が立っていたのに、大好きな人がいじめられて転校してしまった。麦が転校してしまったから、瑠璃の心に追い討ちが掛かってしまった。それに麦が転校した後、山村が瑠璃に酷いことを言ったんだろ?」

「酷いこと?」

それが何なのか、全く思い出せない。
自分で思い出せないから砂田に確認したら、彼は首を傾げた。

「さあ。それだけは瑠璃は教えてくれない」

砂田が嘘をついているようにも見えない。

僕は思い出せないし、どうやらその答えは瑠璃しか知らないみたいだ。
僕が瑠璃に言ってしまった言葉を知るのは、瑠璃のみ。

でも、今はそんなことどうでも良い。
そもそも僕に腹が立つ理由が理解出来ない。

「と言うか、瑠璃が乗り遅れているだけじゃん。万引きした時に、瑠璃も変わろうとしたらよかっただけの話じゃん。何でもかんでも僕のせいにしないでくれる?僕はまともに生きているだけなのに」

怒った口調で僕は砂田に反論する。
でもやっぱり彼の表情は変わらない。

何を考えているのか分からない表情。

「瑠璃、家で酷い虐待にあっているから。思うように自分をコントロール出来ない。小緑や麦と言う心の支えが無くなってしまって、自分を見失っている」

・・・・・・・。

「ぎゃくたい・・・・え?」

砂田の言葉を理解するのに、僕は時間が掛かった。
いつもと変わらない顔で親友の闇を話しているから、理解できなかった。

虐待。
その言葉は僕自身が大嫌いな言葉。

思い出しただけで頭痛がする悪魔のような言葉。

山村家に生まれた僕とお姉ちゃんは親の言うこと聞かなかったら殴られるし、ご飯を抜かれたこともある。

それを僕の親は『しつけ』だとか言っていたが、そんなのは違うと僕は思っている。

だから理解したくなかった。
『理不尽な苦しさ』を瑠璃も経験しているのだと思ったから、僕は現実から目を逸らしてしまった。

砂田は続ける・・・・。