「お疲れさん。昨日出来なかった所、完璧じゃん。もしかして帰ってから練習した?」

リーダーは休憩中に水分補給をする僕に声を掛けてきた。
僕も言葉を返す。

「ダンス楽しいですから」

「そう言ってくれると嬉しいかな。最近はどんどん入会者も減っているし。昔はもっと人が居たんだよ。今の五倍くらいはいたかな」

「へぇ」

五倍くらいって、今の生徒は全員で十人。
五十人も居たのだろうか?

『流石にそれは多すぎ』と思ったけど、『それくらいいたらもっと楽しいかも』って僕は思った。

「来週、赤崎祭だな。練習もあと少しか出来ないし」

寂しげなリーダーの言葉に、僕は思った。

「リーダーはダンス、辞めるんですか?」

僕も言葉にリーダーは苦笑いを浮かべて答える。

「うん。膝も悪いし。それに受験だし。金ないくせに『大学に行け』って母さんうるさいし。『家の花屋を継ぐ』って言っても聞いてくれないし。って言うか、大学なんて行っても意味ないと思うのに」

「どうしてですか?」

「夢ないもん俺。やりたいこともないし。小緑ちゃんは夢はあるの?」

考えたことなかった。
現状にいっぱいいっぱいだから、『未来』の事なんて考えたことなかった。

強いて言うなら、『どうやって未来を絶とうかな』って思ったくらい・・・・。

「ないです・・・・」

「そう。潤さんみたいにダンスで仕事が出来るといったら?」

「うーん」

僕が考える仕草を見せたら、リーダーは笑った。

「まだ中一だもんな。やりたいことなんて今から考えたらいいと思うし」

「リーダーの中一はどんな中一でした?」

「うん?そうだね」

直後、リーダーの表情が曇る。
何て言うか、聞いてはいけない質問をしてしまったようだ。

リーダーはまるで死んだような魚のような目を見せると、僕に言った。

「最悪の中一だったかな」

「最悪?えっ?」

そういえば、『リーダーはいじめの加害者』だと言っていた。
『かつての親友をいじめてしまって、酷く落ち込んだ』って烏羽先生が言っていた。

同時に僕は『いじめた人の気持ちって、どんな気分なんだろう』と思った。
『瑠璃は今、どんな気持ちなんだろう』と考えた。

でも考えても僕にはわからないから、考えるのはやめた。
リーダーに聞くのも変だし。

「練習後半再会するよ」

潤さんの声が聞こえて、生徒達は急いで整列する。
僕もみんな波に流れるように整列しようと急いだ。

でも僕の大切な人の名前を聞いて、僕の足が止まる。

「ねぇ小緑。茜は・・・・元気しているかな?」

リーダーは僕に語りかけているのだが、その声は独り言のように小さかった。
寂しくリーダーは呟いた。

一応僕は答える。

「はい、元気です。『前より明るくなった』って聞きますし」

リーダーは満足したのか、嬉しそうにホッとした笑みを見せてくれた。
よくわかないけど、うれしそうで何よりだ。
僕達は整列して、すぐに後半の練習が始まった。
今日が本番まで最後の練習らしく、みんなの目の色がいつも違った。

そしてそれはリーダーも同じ。

まるで何かを決心したように、リーダーは痛めた膝を庇いながら見事なダンスを見せてくれた。

何度見てもかっこいいダンスだ。