「今まで通りでいい。小緑を励まして、小緑を勇気づけてあげたらいい」

祖父は続ける。

「世の中に様々な『いじめ』が存在するけど、現段階において『いじめ』を解決する方法なんてない。どんなに軽いイタズラでも、相手が『嫌だ』と思えば、それはいじめやパワハラになる。相手に『止めて』と一言言えば、状況は大きく変わるかもしれないけど、そんな事を言える人は中々いない。『状況が収まらずに、お姉ちゃんだけに相談する』ってことは、きっと小緑も言えない人の一人なんだろう」

力強い視線で、私を見る祖父。
私は何度も目を逸らしてしまいそうだったけど、『それだと逃げてしまう』と感じたから、私は祖父の訴えるような力強い目を見ていた。

そして逃げずに見ていたら、不思議とパワーを貰ったような気がした。

「だからこそだ。小緑の意思を無視して『大人の力』で解決しても、小緑は嬉しくない。何より小緑がそれを望んでいない。今必要なのは、『小緑の話をもっと聞いてあげる』ことだ。紗季が今まで以上に『頑張る事』と言えば、今まで以上に小緑の側に居ること。そしてもっと小緑の愚痴を聞くことだ」

「愚痴?」

何度も聞いたことがある言葉だが、私は首を傾げていた。

「人間って不思議でな、どんなに辛くても話してしまえば楽になる。子供の紗季はまだ分からないけど、大人の世界では仕事終わりに飲みに行くんだ。飲みに行く色々理由はあるけど、一番の理由は愚痴が多い。会社や上司の愚痴。中には客の愚痴を言う人もいる。ただ人間には、『誰かと話して辛いことを吐き出す機会が必要』だと言うことだ。愚痴を溜め込んでしまったら、取り返しのつかないことになる。溜まってしまったら自分を見失って、『うつ病』とか『死にたい』と思ってしまう。それだけはなんとしとも避けないといけない。まだ中学一年生の女の子なら、なおさらだ」

祖父の言葉を聞いて私は思った。
確かに小緑の愚痴なんてほとんど聞いたことがない。

小緑の口癖である『死ねばいい』とかよく聞くけど、ちゃんとした愚痴はまだ聞いていない。

・・・・・・・。

だったら、私が小緑の愚痴を吐き出させないと。
小緑から話さないなら、私からもっと愚痴を吐かせないと。

学校に行きたくない理由や、担任や瑠璃の悪口でもいい。
とにかく今は小緑の闇を貯めないことを最優先だと、話を聞いて思った。

祖父はまだまだ私にアドバイスをしてくれる。

「人には『出来ること』と『出来ないこと』がある。だから別に無理して、『一人で解決しよう』とは思わなくてもいい。紗季はお姉ちゃんらしく、妹を想い続けていればそれでいい。自分の出来ることを精一杯もっと頑張ればいい。解決するのは責任のある立場の人間だ」

責任のある立場の人間。
それは親や学校側の事だろうか。

でもそんな人は、やっぱり信用できないのが本音。