ルビコン

「そして、紗季がとても頑張っていると言うことがわかった」

「えっ?」

『なんで私が褒められているんだ』と自分を責めた。
だって私、何もしていないのに。

意味がわからなかった。

祖父は続ける・・・・・。

「紗季は真面目な子なんだろう。きっと全部自分で解決しようと考えているのでは?」

言われて気がついた。
確かに、私一人で小緑が抱えている闇を何とかしようとしているのは事実。

学校も相手にしていないみたいだし、いつものみんなは忙しいし・・・・。

『頼れるのは私だけ』

そう私は幼い頃から何度も自分に言い聞かせてきた。

昔からの私の悪い癖だ。
なんでも自分で出来ると思い込んできた。

体を使うこと以外は、本当に出来てしまった。
だから、『もう誰にも頼る必要はないんだ』って気がついた。

『一人でも意外となんとかなるじゃん』って。

そう私は十八年間生きてきたけど、最近は色んな人に出会って気がついた。
『もっと誰かを頼ってもいいんだ』って。

でも、今の私にはそれは難しいみたい。
簡単なことなのに、私が勝手に理由を作って逃げているだけ。

やっぱり私は『人を信用できない』と言うのが本音だ。
親に頼らないから、自然と人を信用出来ないようになってしまったんだろう。

だから私、『助けて』なんて言ったことがない。
そもそもその言葉の意味を、私自身がイマイチ理解をしていない。

それに目の前の祖父にも、もっと頼ってもいいはずなのに・・・・・。

そんなダメな私を祖父は励ましてくれる。

「小緑が『学校に行きたくない』って聞いたのは本当なんだな?」

「うん・・・」

「どうしてその言葉を小緑は紗季お姉ちゃんに言ったんだと思う?思ったことを言ってみなさい」

難しい質問だと思ったから私は色々考えた。

でも祖父は最後に『思ったことを言ってみなさい』と言っていたから、答えは一つしか思い付かなかった。

「こっちゃんが、私に助けてほしいと思ったから」

「そうだ。小緑は今が辛い。辛いからこそ誰かに助けを求めた。小緑の立場から考えて、それを誰かに相談するなんて、紗季はかなり小緑に信頼されている証拠だと思うけどな。誰だって自分の弱い姿は見せたくない」

そう言う祖父の言葉に、さっき小緑が私に怒った理由がわかった気がする。

それは、助けてくれるはずの私がふざけた事を言ってしまったから。

辛いときに信頼されている人から説教受けたら、誰だって怒る。
嫌になる。投げ出したくなる。

何より『信じている仲間』が嫌いになってしまう。

私の言うことは全てお見通しのように、祖父は暖かい言葉を掛けてくれる。
それにこんな腐りきった私の心を正確に突いてくる人、生まれて初めて出会ったかもしれない。