私の父山村誠司(ヤマムラ セイジ)は政治家だ。
『自分が負けるのが嫌い』と言うか、とにかく頑固な父だった。

勝手に私達にルールを与えつけて、それを破ったら殴ってくるという最低な父親だった。

母の山村菫(ヤマムラ スミレ)は教育委員会の人間だ。
私達のことを『可哀想だ』とか言っているけど、何もせずただ黙って見ているだけの口だけ女。

そして父の言うことなら、例え間違っていても何でも実行してしまう誠司の犬。

私と小緑はそんな二人の間で育ってきた。
お金はあるし、食べるものにも不満はないし、頑張ったら欲しいものは何でも買ってくれる。

でも、そこには『愛』はなかった。
『家族旅行』なんて、行ったことがない。

そんなふざけた二人に、私達はまるで機械ように育てられた。

感情を全て失くして、ただやることをやらされる。
『褒めてほしい』と言わない限りは、親は絶対に褒めてくれない。

私は祖母の姉である『トキさん』に出会って色々学んだけど、小緑は違う。
本当に機械のような子だ。

怒ったり泣いたりはするけど、感情をうまくコントロール出来ないし、常に何かに怯えている。
もし小緑が違う家庭で育っていたら、小緑はどんな女の子になっていたのだろうか。

そう思ったらやっぱり小緑がただ可哀想だった。
学校ではかつての親友にいじめられて、家では常に両親に怯える。

小緑の居場所は・・・・・・ない。

でもそんな中、烏羽先生がダンススクールに誘ってくれた。

最近はダンスに熱中して、『少しは明るくなったのかな』って思ったけど・・・・小緑の闇は消えない。
ダンススクールが悪い訳じゃない。
ただ小緑の闇が深すぎるだけ。

どれだけみんなが小緑を助けようと頑張っても、小緑がさらに深い場所に潜ってしまうだけ。

大凶の出来事を解決しないと、小緑は救えない。

だから『早くなんとかしないと』って思うけど、私じゃ知恵が足らない。
助けようと思っても、本音は何をしたら良いのか分からない。

それに親に相談したいけど、きっとまともに話を聞いてくれない。
聞いても否定するだろう。

もう親に反論するは嫌だし、というか時間の無駄だし。
相手しても意味ないし。

でも目の前の祖父はどうなんだろうか。
ふざけた父を育て上げた親だから、『まともな返事は帰ってこないのだろう』と考えたりもしたけど。

・・・・・・・・。

やっぱり私、誰も信用できないや・・・・。

小緑を連れて、誰一人と知らない世界に行きたい・・・・。