ルビコン

私はリビングの中を確認する。

するとそこにはコロッケを大量に買っていた、大きな体格の強面のおじいさんが座っていた。
それも私の両親の前で、腕を組ながら怒っていた。

って誰?

・・・・・・。

ホント、誰?

「た、ただいま」

父に怒られそうな小さな声で私はそう言った。
そう言ったら『声が小さい』と怒鳴られると思ったけど・・・・。

「お、おう。お帰りなさい。なんだ、遅かったじゃないか」

その腰の低い父の言葉に、私は首を傾げた。
こんな父の言葉、生まれて初めて聞いた。また怒られると思ったのに。

小緑も少し安心したのか、私の後を追って両親に顔を出す。
そして目の前のおじいさんを見て、また暴言を吐いた。

「あっ、クソジジイ」

その小緑の言葉。
どうやら目の前のおじいさんは、小緑にぶつかったおじいさんで間違いないようだ。

おじいさんも小緑の顔を見たら笑った。
まるで『また会ったな』と言っているような気がした。

ってまたこっちゃん暴言を吐いているし・・・・。
もう。
でもその私の心の声を、父が代弁してくる。

「小緑。祖父に向かってその言葉はやめなさい」

「祖父?」

私も小緑と同じで、その父の言葉を理解できなかった。

一方の『祖父』は私達に笑みを見せる。

「紗季と小緑だな。大きくなったな。元気にしとるか?」

「はい!えっとその・・・・」

私は初めて会うの『家族の一員』に、なんて言葉を交わしたら良いのか全くわからなかった。

そんな私を、おじいちゃんは笑みを見せる・・・・。

「紗季、身体は良くなったか?」

「えっと、まだ無理は出来ないですけど、良くはなってます」

「そうか。よかったな」

そのおじいちゃんの言葉に、私は『父と違ってとても優しい人』だと思った。
本当はスゴい怖い人なんだろうけど、久しぶりに会う孫の前は笑顔なんだろう。

一方の小緑は、まだおじいちゃんを睨んでいた。

「こっちゃん、もういいでしょ?」

「やだ」

「なんでさ」

小緑は私を無視して、祖父の前に座る母の元へ急いだ。

「お母さん、お腹すいた」

本当にマイペースな子だと、小緑の姿を見て私はため息を吐いた。
祖父居なかったら、間違いなく殴られていたと言うのに。

人によく喧嘩を売るけど、人懐っこいと言うか・・・・。

母は答える。

「ん?そ、そうね。みんな揃ったし、ご飯にしましょうかしら。今日から兆治さんも一緒に暮らすんだから」

「なんね、菫さん。『お父さん』ってよんでもいいのに」

「うーん、そうね。考えます」

「全く、誠司と同じで素直じゃないなあ。紗季、小緑。コロッケをいっぱい買ってきたら、いっぱい食べなさい。そこのコロッケ、美味しいらしいな」

その何年ぶりに聞いたか分からない両親の名前に、数年前にガンで亡くなった父方の祖母を思い出した。

よくおばあちゃんは私の両親を名前で呼んでいたから、懐かしく思った。