待つこと十分。
『少し遅いな』って思いながら待っていたら、小緑が非常階段から現れた。

額には大量の汗。
体力に自信のある小緑だけど、流石に息は切れていた。

それに動きにくい制服だし。

そして小緑は案の定私を睨んだ。

「なんでいるのさ」

「こっちゃんが心配だから」

「心配なんていらないし。早く家に帰ってよ」

「でもこんな時間だし。連絡してないから、どうせ親に怒られるんだし。怒られるなら一緒の方がいいでしょ?」

「意味わからない」

直後小緑は私から目を逸らした。

でも少し照れているようにも見えた。
本当に素直じゃない子だ。

「こっちゃんどこ行ってたの?またゲーセン?」

「教えない」

「そう。私は公園で一人で泣いていた。ずっとこっちゃんのこと想ってたよ」

「気持ち悪」

「そうかな?だってこっちゃん一人じゃ何にも出来ないし。心配していただけだよ」

「シスコンですか。やっぱり男より女が好きなの?」

「かもね」

「おえー」

小緑と会話するも、小緑は私と目を合わせることはなかった。
ずっと遠くを見ていて、何かを考えているようにも見えた。

そして私達は家の玄関を開ける。

いつも聞こえて来るのは、親の怒ったような声。
親から見たら、出来の悪い娘のの罵声や愚痴・・。

・・・・・・。

でも今日は違った。
親の声は聞こえない。

代わりに聞こえるのは、聞き覚えのあるおじいさんの声。
しかも怒ったような声だ。

『いったい誰がいるんだろう』と思った。

身内?
でもそんな人は知らないし。

リビングの扉は空いており、食卓は玄関から丸見えだった。
そしてその食卓には、何故だか説教を受ける私の両親の姿があった。

怒っている相手は、死角で見えない。
怒られている内容はよくわからない。
でも『なんで親が怒られているの』と疑問だけが浮かんだ。

いつもは私達を怒鳴って満足するふざけた親なのに。
私は不思議に思った。

それに『その二人を怒っている人』って、どんな人なんだう?
入ってもいいのだろうか。

いや、自分の家なんだから大きな声で『ただいま』って言えば問題ないんだけど・・・・。

小緑も私と同じ反応だった。
首を傾げながら、初めて見る光景を受け入れなれなかったんだろう。

唖然と口が開いていた。

それと美味しそうな匂い。
これはコロッケのような揚げ物の香りだ。

それも商店街の。
結局食べれなかった総菜屋のコロッケと同じ香り。

・・・・・。

まさか・・・・。