公園から自分の家があるマンションまで歩いて約十分。
家の最上階へ向かうエレベーターには、見覚えのある女の子がエレベーターを待っていた。

「あっ、さきねぇ」

妹の小緑は姉である私を見て何かを感じたのか、エレベーターから離れていく。
そしてこのマンションの非常階段の扉を開けようとしていた。

その小緑の姿に、彼女が無事で私は何より嬉しかった。

さっきより小緑の表情は晴れている気がするけど、何かいいことがあったのだろうか。

ってこっちゃん、本当にエレベーター使わないの?
階段で上がるつもりなの?

「いやいや、家は二十階だよ?流石にこっちゃんでも階段で二十階は」

「うるさい!病弱で情けないお姉ちゃんにエレベーターを譲ってあげているの。感謝してよ」

『情けない』は余計だと思ったが、今の私は納得するしかなかった。

だって本当に情けないし。
「ありがとう。じゃあもう好きにしたら?」

どうしたんだろうか。
小緑は私の投げやりの言葉に少しだけ驚いたような反応を見せた。

やがて小緑は姿を消して、本当にエレベーターを使わずに階段をかけ上ってって行った。
『本当に小緑は頑固だな』と思いながら、私はエレベーターに乗る。

同時に思った。
『私達姉妹なのに、中身は全然似ていないな』って。

『顔はよく似ている』って言われるけど・・・。
 
私はエレベーターで最上階に着いたが、すぐには家には向かわない。
ただずっと、二十階にある非常階段の扉を眺めていた。

『扉を眺めていたら、息を切らした小緑が現れるかな』って思ったから。

昔から一度決めたことは絶対に守る子だった。
どれだけ時間が経っても、みんながその約束を忘れていても、こっちゃんは最後まで絶対に諦めない。

不器用ながら真っ直ぐな女の子だ。
普段はおっとりしているけど、自分が正しいと思ったらその意思を貫く意地っ張りな子。

まるでペンギンみたいな子だといつも思わされる。
陸ではよちよちと歩くのに、水の中では物凄い速さで泳ぐペンギンみたい。

あと、正義のヒーローみたいだ。
昔はよく悪さをしていたけど、誰かの影響なんだろうか?

だからこっちゃんなら間違いなく非常識階段をかけ上がってくる。
『自分が正しい』と思って毎日行動しているんだ。

小緑が本気なら、私も本気で応援しないと。