「この山村の様子じゃ、山村の親は娘の異常事態に気付いていないと思う。だから、お姉さんから両親に伝えてほしいんだけど」

その先生の言葉は、ゲームに集中する小緑の耳にも聞こえたようだった。
小緑は手を止めると同時に私を睨んだ。

「やめて、さきねぇ。それだけは絶対に言わないで。つか『親に言うな』って、さきねぇがいつも言っているんじゃん」

確かに、私は都合が悪いことがあれば『親には絶対に言うな』と小緑にはうるさく伝えている。

でも、もちろん嘘はよくない。

だから正確には『自分からは何も話すな』って小緑に教えている。
『聞かれたら素直に話そう』って。ただそれだけを教えた。

小緑はお姉ちゃんとの約束を守っているだけ。

親に『自分がいじめられている』と言わないのも、私が『絶対に言うな』と言ったから。

『今は二人で頑張ろ』って、二人で約束したから。

「すいません先生。それだけは言えません」

何よりあの馬鹿な親が、小緑の言葉を信じてくれているとは思わない。
両親に相談しない一番の理由はそれだ。

「そうか。変なことを言ってしまったな」

先生はそれだけを言って笑顔を見せてくれた。
聞きたいことは山ほどあると思うけど、何も聞いてこなかった。

小緑も私の言葉に安心したのか、またゲームに集中していた。

「よし、んじゃ帰るわ。こう見えてまだまだ仕事が残っているし。山村もダンス頑張れよ。それとマーロンをクリアしたら教えてくれ。また語ろうぜ。お姉ちゃんも時間をくれてありがとうな」

先生は会計を済ませて先に喫茶店を後にする。
取り残された私は隣の小緑を見て大きなため息を吐いた。

一体いつになったら終わるんだろう・・・・・。

・・・・・・。