「まあ話なんだけど・・・・山村の妹の事でな。事情は知っていると思うが、コイツは学校でいじめられている。今俺が山村をいじめる生徒と話し合っているだが・・・・・全く効果がないのが現状だ」

私は隣に座る小緑を気にしながら先生の話を聞く。

こんな状況でも、小緑はゲーム機で遊んでいる。
でもきっと気を紛らせているんだろう。

『好きなことをして、少しでも自分を取り戻そう』と先生が提案してくれたのだ。
小緑がいつも持っているゲーム機とは違う色だし。

そのゲーム機の持ち主は先生の私物なんだろう。
学校にゲーム機持っていたら駄目だし。

そう言えば目の前の先生も『マーロンが好きだ』と、小緑が言っていたっけ。

先生は話を続ける。

「正直言ってお手上げだ。現場を確保して捕まえても、解放されたらまたいじめが始まる。クラス変えようと思っても、俺にはそんな権限ないし」

その言葉に私は学校側への苛立ちを覚えた。
烏羽先生へ向けてじゃない。

『俺には』って、もしかして『学校側は何もしていない』って事なんだろうか?

今小緑のために動いているのは『学校』ではなく、目の前の『烏羽先生ただ一人だけ』ってことだろうか?

「学校は、何しているのですか?小緑が酷い目にあっていると言うのに、学校は何もしないのですか?」

「すまない・・・」

小さく聞こえる有線放送の中から、申し訳なさそうな先生の謝罪の言葉が聞こえた。
そして私は悔しさを噛み締めた。

前から『おかしい』と思っていた。
一ヶ月前、『どうして小緑が謹慎になったのか』ってずっと考えていた。

小緑は瑞季くんを助けただけ。
とっさの怒りで相手を殴ってしまったと言うのは分かるけど、『どうしていじめを救おうとした生徒を謹慎にする必要があるんだ』って。

だって、どう考えたっておかしいじゃん。
『喧嘩して暴力を振るった』として謹慎になるのは分かるけど、理由をちゃんと聞くべきだと思う。

ただルール通りに『相手を殴ったから謹慎です』じゃなくて。
もっと考えてよ。

それで自分は『教育者』だってよく言えるよね。
ただの学校のルールに縛られた犬だというのに。

そしてもう一つ、私は疑問を抱いた所がある。
理解できない学校の対応がある。

いじめの加害者である大村瑠璃(オオムラ ルリ)と言う生徒は、小緑と同じ頃に教室に帰ってきたって言うこと。

それってつまり、『瑠璃がいじめをしたという謹慎』じゃなくて、『小緑に暴力を振るった』という謹慎が解除されたという意味じゃないだろうか?

まるで最初から、瑞季くんや小緑へのいじめはなかったかのように。
反省するべきことは山ほどあると言うのに。

それが本当に悔しい。
『ふざけんな』って、大声で叫びたい。

馬鹿な大人の対応で、子供達の未来が潰されるなんて意味が分からない。

でも、そんな腐りきった教育者がいる学校でも小緑の事を考えてくれる先生もいる。
例えば目の前の烏羽先生とか。

小緑にダンスを誘ってくれたのは烏羽先生だ。
初めて小緑が踊っている所を見たけど、小緑の目は輝いていた。

悔しそうに自分の部屋でステップを踏む小緑の姿は、どこか私の心を癒してくれた。