十一月になってから、小緑の表情が更に暗くなった。

姉である私、『山村紗季(ヤマムラ サキ)』の前ではいつものマイペースな妹だけど、目は死んでいた。
勉強を教えていても、小緑の頭の中に入っていないのだろう。

それを裏付けるように、小緑の中間テストの成績は散々だった。
勉強の成果から前よりは点数は上がっているけど、勉強を教えても小緑の頭の中には入っていないんだと私は思った。

親にはまだ見せていないけど、親が知ったらまた小緑は殴られるだろう。

小緑のいじめは終わっていない。
あれから一ヶ月も経ったと言うのに、何も変化はない。

それどころか状況は更に悪化してしまった。
最近は『学校に行きたくない』と、私の前で訴えるようになった。

親に言ったら絶対に反対するから『絶対に親には言うな』と言っているけど・・・・。

もう小緑の心は限界を超えているようだった。
『死にたい』と訴えているような気がした。

茜ちゃんが誕生日会を提案してくれなかったら、最悪だったかも。

そんなある日、学校が終わった私は小緑に呼び出された。
『来てくれ』と言われて向かった場所は、歴史のありそうな古い小さな喫茶店。

そこには見覚えのある先生が小緑と一緒に座っていた。
確か小学六年生の時の茜ちゃんクラスの担任。

保健室登校の茜ちゃんを尋ねて、何度も保健室に顔を出す先生。

名前は確か、烏羽信二(カラスバ シンジ)先生。

「こんにちは。君が山村のお姉ちゃん?確かによく似ているね」

そう言って烏羽先生は笑った。
若そうな容姿にキレイな顔立ち。

そして明るい声。
何て言うか、私は少しだけ安心した。

「烏羽先生ですよね?」

「なんだ?俺の事知っているのか?俺、イケメンだから有名だもんな」

「そうですね!先生カッコいいですもん!」
その先生の言葉はただの冗談ではなく、小緑を元気付けようとする先生の努力だと気が付いた。

私がそう言ったら小緑は否定して、少しは表情は露にしてくれるかなって思ったけど・・・・。

相変わらず元気のない小緑を見て、まるで小緑だけが違う世界にいるように私は思ってしまった。
助けてくれる先生の声すら届いていないように思えて、私は胸が苦しくなった。

私は小緑の隣の席に座った。
そして早速話が進む。