「あー、盛り上がっている所ごめん。僕のケータイあんまり充電ないんだ。続きは愛藍くんのケータイで」

その声が茜にも聞こえたのか、茜は声を荒げた。
切れると思ったのだろうか。

「ねぇ愛藍!絶対に赤崎祭来てね!約束だよ!」

赤崎祭ってなんのことだろうかと思ったが、すぐに理解した。
みんなの言う秋祭りの事だろう。

「ああ分かった。今の言葉、絶対だぞ!」

そう言って、俺は橙磨さんに携帯電話を返した。
そう言えば橙磨さん、俺の恥ずかしい声を終始嫌らしい顔で見ていたっけ。

まるで楽しんでいるように。

そう言えば遅刻したことに対して、俺はまだコイツを殴っていない。

「何ニヤついてんだよ」

「別に。でもよかったじゃん。茜ちゃんが君の事を想っててくれて」

でもその言葉を聞いた俺は安心して、もう橙磨さんの今日の事なんて、『どうでもいい』と思えるほど心が広くなった気がした。

「そうっすね」

「愛ちゃん!橙磨くん!早くいくよ。愛ちゃんの奢りで打ち上げパーティー」

俺の言葉の直後、遠くから桜の声が聴こえてきた。
気が付いたらベンチの中には俺と橙磨さん、そして草太しか残っていない。

「ってマジで俺が奢るのか?意味わかんね」

ため息を一つ吐くと、俺は肩を落とす。

でもそのため息も、橙磨さんの一言で吹き飛ばされる。

「しっかし、君も面白い人だね」

「あ?」

橙磨さんのいる方へ俺は振り向く。
すると彼は何か考えるような仕草を見せていた。

「茜ちゃんをいじめた奴だと聞いたから、君を少し警戒したのは事実。でも蓋を開けたらただのクソガキだ。よく喜ぶし、よく怒るし、よく泣くし、よく笑う。茜ちゃんとそっくりだね。君は」

その言葉はすごく嬉しかった。
なんて言うか、『俺も変わったんだ』と思わされたから。

でもここは謙虚に。
ここで納得したら、俺の進化は止まると思ったから。

「そうか?」

俺は適当に首を傾げた。
そしたら橙磨さんは小さな笑みを浮かべた。

「あと敬語使ってね。一応年上だし」

まあ確かに。
橙磨さんとは過去にも会ったことがあるらしいが、ちゃんと話したのは今日が初めて。

そんな初対面の年上にタメ口なんて、確かにどうかしている。

「はいはい。わかりましたよ」

慣れない言葉を使ったら、橙磨さんはまた笑った。
まるで彼が俺という柴田愛藍の存在を受け入れてくれた気がして、俺も嬉しくなる。

まるで『友達』が出来たみたい。