それとその女の子の後ろには、俺がデッドボールを当ててしまった男の人。
多分女の子のお父さんなんだろう。

目元が娘と似ていて、優しそうな表情を浮かべた人だ。

てか早く謝らないと。

「やあ、向日葵ちゃん。ナイスホームランだったね。それに東雲さんもお疲れ様です」

謝ろうと思ったが、俺の背中を押すように橙磨さんの声が聞こえた。
そう言えば当てた時に橙磨さんの知っている人だと言っていたっけ。

東雲さんと言われた男の人は、笑みを見せて答える。

「橙磨くんもお疲れ様です。美憂さんの手伝いの後だと言うのに、本当にお疲れ様です」

「いえいえ。ただの暇人ですから。それに茜ちゃんの『親友』が来ているとなれば。一度会っておこうかと思ってね。気になるし」

最後の言葉が何故か気になった。
まさか、コイツも茜のことが好きなのだろうか?

でも今そんなことよりやることがあった。

「あ、あの・・・。今日はすいません。頭にボールぶつけてしまって・・・・。怪我はない、ですか?」

俺は慣れない敬語を使って、頭がパンクしそうだった。
同時に俺は頭を深く下げる。

でもこの人の笑顔は変わらない。

「気にしないでください。大事をとって交代しただけですから。それよりあのトリプルプレーは見事でしたね。野球やっていたのですか?」

「いえ、その・・・・未経験っす。たまにこのチームに呼ばれるだけって言うか」

「そうですか。初回のホームランもスゴかったですね」

何て言うか、不思議な雰囲気の人だ。
明らかに怒れると思ったけど、何故か笑顔で俺に接してくれる。

それに、なんでこの人は敬語なんだ?

「ねぇ、お兄ちゃん名前は?草太とどういう関係?」

向日葵と言う小さな女の子の言葉に、俺は少し躊躇った。躊躇う理由なんてないはずなのに。

「俺は柴田愛藍。草太の友達だ。こう見えてピアニストなんだぜ」

そう自慢げに言ったら、向日葵は目を輝かせた。
一方のお父さんである人は何故か苦笑いを浮かべると、肩を落とたようにも見えた。

って、なんで?

「ピアニストってことはピアノ?もしかして茜ちゃんと一緒?お父さん!向日葵もやっぱりピアノ習いたい!」

娘の言葉にお父さんは呆れた表情で答える。
「三日坊主にならないというなら考えます。すぐに辞めると言ったら、野球も辞めさせますよ」

何か深い事情があるのだろうか?
例えば、何を習わせてもすぐに辞めてしまうように・・・・。

と言うかまた『茜』って。
アイツ何者なんだ?

俺の知らない間に、どれだけ知り合い作っているんだよ・・・・。