「なあ桜。もし好きな人に嘘ついてしまったら、どうすればいい?謝ればいいかな?それが原因で疎遠になりそうになったら、どうすればいいかな?俺、そいつとまた仲良くしたいんだけど」

俺が真剣に悩んでいたのに、何故だか桜は首を傾げた。
『なんでそんなことを聞くんだ』と言われている気がして、俺も首を傾げた。

そして桜は答える。

「そんなの放っておけばいいじゃん」

「は?」

俺は理解出来ないでいたが、桜は俺を気にすることなく言葉を続ける。

「なんで過去に囚われなければいけないのさ。過去を振り返っても、過去は変わらないじゃん。そんなの放っておいて、先に進んじゃったらいいじゃないの!友達と何かあっても、何も無かったように話せばいいじゃないのさ!そうやって過去をほじくり返すことが『一番無意味』って、なんで気づかないかな?」

考えたことのない言葉に、俺は怒ったような桜をずっと見ていた。
目の前の小さな女が俺の幼馴染みであることを忘れそうなくらい。

例えばその言葉、もし茜と再会した音楽祭。
あのとき俺は茜の肩を叩いて『久しぶり、元気してた?今度また遊ぼうぜ!』って声を掛けたら、今の俺達はまた違う姿になれていたのだろうか。

過去を上書きするように、まるで『最初から何も無かった』ように。

楽しい日々を新しく作って過去を忘れることが出来たら、それは幸せなんだろうか。

『後悔』はしないのだろうか。

でもそう思ったのも束の間。俺は一つの疑問に気がつく。

「つかお前さっきと言っていること違うくね?さっきまで『ももちゃんがどうやらこうやら』って言っていたじゃねえか」

ある意味呆れたやつだ。

俺の言葉に桜は怯むことなく前に突き進む。

「私は今進化したの!さっきと違うの!この野球チームの名前、知っているわよね?」

「川島ダーウィンズ」

川島は知らない。
誰かの苗字なんだろうか。

でもダーウィンズは知っている。
進化論を唱えた偉大な人の名前。

ちなみに進化とは『成長、変化、そして乗り越えること』を意味する。

・・・・・・。

ああ、だからか。

コイツ、ほんとスゲーやつだ。