「そんなことねえよ」

即答で答えたら桜は驚いたような表情を浮かべていた。
そう言えば桜は俺の正体をまだ知らなかったっけ。

俺は小さな息を一つ吐くと続けた。

「お前の友達の桑原茜。アイツ暗かっただろ?初対面っていう理由もあるけど怯えていただろ?なんでか分かるか?」

「茜ちゃん?・・・・・知らない」

「俺がアイツをいじめていたから。生きるのを嫌と言うほどいじめたから」

吐き出すような思いの中、俺は自分の過去を言った。
自分の事を支えようと本音を言う幼馴染みの正体は、親友の人生どん底に叩き落としたクズ野郎。

これで俺のことは嫌いになっただろうか。

桜の表情も案の定強張る。

「どうだ?軽蔑するか?」

「そんなわけないでしょ。なんで軽蔑なんてしなきゃならないのさ!」

「は?」

俺が理解できない表情を見せたら、桜の顔がまだまだ赤く染まっていく。
最終的にはリンゴのように真っ赤に染まったように見えて、何故か面白かった。

ってなんで?

一方の桜も自分の想いを伝えてくる・・・・。

「私、愛ちゃんのことずっと好きだったんだよ!いつも愛ちゃんと一緒に居たいなって。愛ちゃんの彼氏になれたらいいなって。ずっとそんなことを考えていた!初めて好きになった相手だもん!簡単に嫌いになるわけないじゃない!」

・・・・・・・。

何て言うか、その言葉を理解したら話が進みそうだったから俺は牽制を入れた。

「お前それ本気で言っているのか?冗談だろ?」

「逆に嘘つく理由ってなに?」

「いや、だってお前性格悪いから。言ったあとに『冗談でした』って言うと思ったから」

俺がそう言ったら、桜は怒った。
それも今日一番の狂ったような、怒ったような表情。

「頭おかしいんじゃないの?好きな人に嘘ついて何になるのさ!自分を苦しめる嘘をついて、何になるのさ!そんなのただの馬鹿だよ。臆病者だよ。ただのヘタレだよ!」

その桜の言葉はまるで槍のように俺の胸に突き刺さる。

言われてみればそうだ。
俺は茜に嘘ついて、何を求めている。

いじめという嘘でどれだけ自分が苦しんだか。

例の事件の後、素直に葵や茜と話し合えば済んだ話なのに。
と言うか茜をいじめても、『誰も得しない』ってなんで気付かなかったんだろう。

だからそれが情けなく思って、改めて後悔した。

ホント、茜との記憶は後悔だらけ。

「だよな。そうだよな。俺、ただのヘタレだよな」

「えっ?」

「なんでもない。ただ『もっと頑張ろう』って思っただけ」

でも不思議と『心のモヤモヤ』が少し吹き飛んだ気がする。

同時に思った。桜の心は俺と比べて凄く強いということに。
大好きな親友を失いかけて、自分の足は再起不能と言われてて走ることすら許されないのに。

何て言うか、俺の考えていることがとても小さく思えた。

そんな桜に俺は問い掛ける。