「桜ね、いつも活躍する桃花を見て悔しそうにしていたの。桃花はいつも打つし、守備もお兄ちゃんと息のあったプレーを見せるし。逆に桜はあまり上手くなかったな。陸上で足は速かったし、運動神経もよかったけど、野球に関してはさっぱり。全然バットにボールに当たらなかったもん。三十打席連続三球三振なんて記録作っちゃったもん」

聞いたことのない不名誉な記録に、俺は眉間にシワを寄せた。
そして本当に桜は野球が下手なんだと思った。

でも疑問は残ったままだ。

「ひでぇな。でもそれがなんで桜がバット振る理由なんだ?」

まるでその言葉をもう一度待っていたかのように、美空は笑った。
俺には聞いてほしいと言っているような笑顔を見せて・・・・・。

「きっと、今日の愛藍くんが桃花に似ていたからだと思うよ。頑張る愛藍くんを見て、自分も打ちたいと思ったんだと思う」

また『頑張る』という言葉。
『そんなつもりはない』と否定したかったが、今は俺の事はどうでもいいと思って、何も言い返さなかった。

美空は続ける。

「何て言うか似てるもん。愛藍くんと桃花。喧嘩早いし、常に人を困らすことばっかり考えるし。あと無茶するし」

俺に似ているって本当にどんな奴だ?
俺に似て、クズ野郎なのだろうか?

そう言えば、桜も似たような事を言っていたっけ。
『本当にももちゃんみたいで、無茶な人だよね。愛ちゃんは。ももちゃんそっくり』って。

・・・・・・。

だとしたらチャンスかもしれない。

「なあ!だったら教えてくれよ。桃花って言う奴は、どんな声出して桜を応援していたんだ?」

その桃花という奴は、どうやって桜を励ましていたのだろうか。
その桃花だったら、今の桜を応援するときにどんな言葉を掛けていたんだろうか。

その言葉だけが俺の中を駆け巡る。
それだけは、何としても知りたい。

「えっ?なんでそんなこと」

「いいから教えてくれ!」

馬鹿な考えかも知れない。
だけど『俺と桃花が似ている』って事は、『桜は俺を見て、親友の姿を思い出している』って事じゃないだろうか。

その俺が桃花のように応援したら、桜は元気が出るのではないだろうか。

その時桜は二球目も空振り。
ツーストライク追い込まれた。

すっぽぬけのボールにも手を出そうとしていんだ。
きっと次が最後の一球になるだろう。