「ちょっと桜!なにやってるのよ!」

美空の声を桜は聞いていない。
桜の目線の先はマウンドに立つピッチャーだけ。

睨み付けるような桜の視線に、俺達は嫌な予感がした。

「アイツ、まさか自分で試合決めるんじゃ」

俺の呟きに美空は小さく頷いた。
真っ青な表情を浮かべて、桜の足を心配しながら・・・・。

「桜!もう振らなくていいから!お願いだから、そのまま打席に立ってて!」

美空の心配を無視するかのように、桜は真剣な表情だった。
この様子じゃ彼女はまたバットを振るだろう。

そんな中、俺は一つだけ疑問に思ったことがあるから、美空に問い掛ける。

「なあ、桜って野球やったことあんのか?」

「あるけどヒットなんて打ったことないわよ。いつもラストバッターだし」

じゃあなんで打つんだろうか?
ここは自分で何とかすると思っているのだろうか?

監督だから自らのバットでこの試合を終わらせたいのだろうか?

「つかずっと気になっていたけど、なんで桜達は野球やってんの?野球部じゃなかったじゃん」

俺の言葉に美空は答える。

「ただの気まぐれよ。橙磨くんの妹の桃花が急に『野球やる』って言い出したから。暇そうな私たちの友人集めて始めたの。最初は桃花も居たんだけど、意識が戻らなくなっちゃったし。・・・・そうね、橙磨くんがショートで桃花がセカンド。双子の二遊間は投げてて本当に安心したんだから」

桃花ってそんな凄い奴だったんだと俺は思った。
名前は聞くけど、俺はそいつの事は何にも知らないし。

会ったこともないし。

でも桜や美空、それに橙磨さんの中心にはいつもその『桃花』という女がいることに、俺はようやく気が付いた。

「あっ、だからかな?桜がバットを振る理由」

「え?」

美空の声に俺は驚いた声で反応する。