「最悪バット振らなかったらいいじゃん。フォアボール狙いで。じゃなきゃ打席放棄でスリーアウト試合終了。後はないんだぞ」

「でも私は」

「じゃあ負けようぜ。何敗目だ?今日で勝率酷いことになりそうだな」

少し嫌味を言ってみたが、桜の反応は変わらない。
そう言ったらまた俺を殴って元気になるかな?って思ったけど、桜は落ち込んだままだった。

でも俺は何度でも桜を励ます。

「桜も野球したいんだろ?采配下手くそだからな。昔から頭使うより、体使うほうが好きだったじゃねぇか。あと俺にそのメガホンでケツバットしよと時、いいスイングしてたじゃねぇか」

俺らしくない言葉で、桜をを励まそうと言葉を組み立てる。
でも俺は人を困らせてばっかりの人間だから、うまく言えているのかわからない。

だけど桜は涙を流して泣いていた。
本当にめんどくさいやつだ。

というか、こんなこと俺に言わせやがって。

らしくねぇつーの。俺もお前も。

「だから、最後くらい頑張ろうぜ。気に入らなかったらまた俺を気が済むまで殴ってもいいからよ」

「本当に?」

「何なら今から一発殴ってみろよ」

『今なら許すから』って言ったつもりだけど、光のような速さで桜の小さな拳が飛んでくる。

「痛ってえな!マジで殴るのかよ」

同時に俺の頬に痛みが走った。
そして何のためらいなく殴るその桜の姿に、俺は苛立ちを覚えた。

だってさっきまで泣いていたのに。『殴ってもいい』と言った瞬間にその態度。
球審も驚いてやがるし。

本当にこの女はどうかしてやがる。

でもその一発で元気が出たのか、桜は笑顔になった。
桜が笑顔になってくれるなら、殴られた俺も嬉しく思えた。

ちなみに俺はドエムじゃない。

「本当にももちゃんみたいで無茶な人だよね、愛ちゃんは。ももちゃんそっくり」

「あ?」

「なんでもない」

桜は涙を拭った。
そして俺が被っていたヘルメットを奪って、バットを手に取った。

「『代打監督』でお願いします」

そう言って彼女は球審に告げると桜はベンチを出た。

サイズの違うヘルメッドを被りながら、桜はバッターボックスに向かった。