案の定ベンチに戻ったら袋叩きにあったけど、もう抵抗する力すら残っていなかった・・・・。

「ねぇねぇ愛藍くん。なんで三振しちゃったの?やる気あるの?期待していたのに」

「あーはいはい。すいませんでした」

美空の声を聞き流す。
『仕方ない』と思って俺はベンチに座る。

一方の桜は、怒りに満ちた表情を浮かべていた。
黄色いメガホンで俺の頭を何度も叩いていた。

「ちょっと愛ちゃん!愛ちゃんが打たなかったらこの試合どうなるのさ!」

「知らねえよ。もう過去の事なんだし。俺に聞くなって」

「ふざけないでよ!美空がこの状態で打てるわけないじゃん!どうしてくれるのよ」

いやいや、結構まともな事を言ったつもりなんだけど。

『監督だったら過去より、今や未来の事を考えるのが普通なんじゃないか?』って思うけど、何故だか自分のことを言っているような気がした。
俺のように過去をネチネチ言って変わるんだったら、俺も納得して嬉しいけど・・・・。

俺が茜をいじめたのは事実。
その過去は変えることは出来ない。

受け止めることしか出来ない。

「川島ダーウィンズ、次のバッターは?打席に立たないと打席放棄でアウトになりますよ」

球審の言葉に、桜は焦っていた。
状況は九回裏一点ビハインドのツーアウト二三塁。

打席放棄でアウトになるってことは、『試合終了』で俺達の負けだ。

「だってよ監督。どうすんの?」

「『どうすんの?』って、愛ちゃんが凡退するから!」

「はいはい。もうそんなことはどうでもいいから。美空、無理なのか?」

「うーん、多分両足骨折した」

「いや、嘘だろ」

さっきまでベンチから飛び出しそうな勢いで状況を見守ってくれた。
足も動いているし、捻挫ぐらいだろう。

打順がまだの選手は何も出来ることがないし、悔しそうに状況を見守ることしか出来ない。
三塁上にいる橙磨さんも出来ることがないため、暇そうに空を見上げていた。

監督の桜の焦りは増す一方。
桜の表情は強ばり、この様子じゃ頭がパンクして何も思い付かないのだろう。

その負けしか見えない未来に、俺は再びため息を吐いた。
そう言えば茜もよくため息を吐いていたっけ。

もしかして茜の癖が移ったのだろうか。

・・・・・・・・。

まあでも本音を言うなら、俺も試合を捨てた訳じゃない。

負けず嫌いの俺が完敗して、悔しがらない理由を上げるなら『まだ負けていない』から。
他の誰かなら、試合をひっくり返してくれると思うから。

「代打送ったらいいじゃん」

だから、投げやりに俺はそう言った。