九回の裏の攻撃。

マウンドには草太から違うピッチャーに変わっていた。
大きな体格の、どこかの家のお父さんだった。

同時にキャッチャーも変わっていた。
というかもう相手は全員お父さん。

マウンドも外野も内野も全て中年のおっちゃん達。
勝つ気でいるのかおっちゃん達の表情は引き締まっているようにも見えた。

若い俺達も負けないようにしないと。

一方で交代した小学生の草太と少女の二人は、楽しそうにベンチで声を張っていた。
息のあった二人の声援に、相手チームが引き締まったように思えた。

その二人の後ろには俺が頭部に死球を当ててしまった選手がいる。
何て言うか、少女と良く似ていると思った。

お父さんのような優しい笑顔で選手を応援すると共に、目の前の二人を暖かい目で見守っていた。
少女のお父さんなのだろうか?

川島ダーウィンズの攻撃は、遅刻して九番の打順に入った橙磨さんが左バッターボックスに立つ。
遅れながらも彼は先ほどの打席で左中間へのツーベースヒットを打っている。

期待できそうだ。

初球、橙磨さんのバットは空を切った。

速い。
今まで見たことのない球の早さだ。

球速も百四十キロは出ているんじゃないだろうか。

想像を遥かに超えた相手チームのピッチャーに、俺は息を飲んだ。
『こんなの打てんのか』って。

二球目も橙磨さんは空振り。
橙磨さんは悔しそうな表情を浮かべてグランドの土を小さく蹴った。

その表情を見た桜と美空は驚いていた。
きっと橙磨さんの今の表情を見たことがなかったのだろう。

三球目、ようやくバットに当たるも当てただけのバッティング。
ボールは一塁線へのファールとなった。

カウントは変わらずツーストライク。

だがその一球で橙磨さんは何か打つコツを見つけたのか、粘り続けた。
来る球をファールで粘り、カウントもフルカウント。

この打席だけで相手ピッチャーに十二球も投げさせた。
粘る度に笑う橙磨さんの姿は相手ピッチャーから見たら嫌だろう。

それにこの人は何考えているか分からないし。

そして十三球目、ボールは大きくキャッチャーが構えた所から外れてボール。
ボール四つでフォアボール。

最終回に待望のノーアウトのランナーが出た。