『打たれた』と打球の行方を追わなかった俺は、その審判の声に驚いた。

俺は顔を上げると、外野のフェンス際で倒れている選手がいた。
センター後方のフェンスギリギリの場所で、美空がボールを掴んだグラブを高らかに上げてうつ伏せで倒れていた。

その現状を理解するのに俺は時間がかかった。
アウトを三つ奪ったと言うのに、俺はマウンドで呆然としていた。

「美空!」

桜がセンターの彼女に声を掛ける。
同時にレフトとライトが未だに倒れる美空の元へ向かう。

一方で『大丈夫だ』とうつ伏せのままで美空は手を振っているが、中々起き上がろうとしない。
心配した橙磨さんも急ぎ足で美空の元へ向かうと、その彼の小さな体で彼女を背中に乗せた。

正直言って、俺は打球を見てはいなかった。
『スタンドに運ばれた』と思った打球はフェンス手前で突然失速。

どうやら突然の突風に押し戻されたようだ。
その打球を追いかけていた美空はダイビングキャッチでボールを掴むと同時に、フェンスにぶつかったらしい。

その超がつくほどのファインプレーに、俺達のチームメイトからの歓声と共に、相手チームからも歓声の声が聞こえた。

一方で俺同様に現実を受け入れられなかったのか、打った彼女は二塁ベースを回った所で立ち止まっていた。
美空と共にベンチに戻る俺のチームメイトを見た彼女は、小学生らしく頬を膨らませて怒っていた。

そして駆け足でベンチに戻ると、彼女は草太を始めとするチームメイトに『ナイスバッティング』と励まされていた。

俺もベンチに戻る。
どうやら俺はこの回をたったの五球で終らせたようだった。

何て言うか色々有りすぎて、一人で試合を完投してしまったような気分だった。
たった五球しか投げていないのに。

本当に疲れたが、まだ勝負が終わった訳じゃない。
むしろここからが本番だ。

すぐに九回裏の攻撃は始まるけど、俺はどうしても美空に聞きたいことある。
そしてベンチで横たわる彼女に俺は問いかけた。

「美空、なんで?なんでそこまでして」

俺の質問に、美空は体を起こして表情を変えた。
まるで『なんでそんなことを聞くんだ』と言うような呆れたような表情にも見えた。

「そりゃねぇ、アンタがあんなに頑張っている姿を見せられたら、こっちだってやる気が出るわよ。それに打たれたら愛藍くんが可哀想だし」

「えっ?」

その言葉が何故か嬉しかった。
『頑張っている』って言われたからだろうか。

そんなこと言われたのはいつ以来だろうか。