ルビコン

元々俺は悪い奴だ。
小学生時代は毎日のように先生に怒られていた。

理由はみんなが困るような事をしていたからだ。
まるで悪役のように、みんなを困らすことしか考えていなかった。

正直言って、当時のクラスメイトからも嫌われていた。

まあ・・・葵は顔立ちのせいか好かれていたけど。

だから、俺は人を困らせることが好きだ。
人の困った顔を見るのが好きだ。

草太を困らせて、その草太の声援を絶望に変えてやる。
そうしたら草太も負けずに、もっと彼女を応援出来るように大声を張ってくれよ。

もっとその声が大きくなって、大切な仲間を守ってやれよ・・・・。

まるで正義のヒーローのように・・・・。

二球目、俺の渾身の一球はバッターの表情を変えた。
ど真ん中の速球。

今までの球とは比べの物にならないくらい速い。

彼女のバッドは大きく空を切った。
完全に振り遅れていた。

悔しそうな彼女の姿を見て俺は嬉しかった。
こんなの、いつ以来だろう。

まるで茜と一緒にいた楽しい日々に似ている。

カウントはツーストライクと追い込んだ。
いっそうのこと、三振でも奪ってやろうか。

仲間が追い込まれた方が、応援のやりがいがあるだろ?
だからもっと大きな声で、彼女を応援してやってくれよ。

その方が草太も楽しいだろ?
年の離れた俺なんかより、同じ年の子と遊んだ方がいいだろ?

『打てるものなら打ってみろ』と、俺は三球目を投げた。
二球目より更に良い最高のボールだ。

『俺って野球のセンスもあるんだ』って思うほどの綺麗な球筋。

また球の速度は速くなり、コースはバッターの膝元。
バットに当たったとしても、ファールが限界だろう。

当てることすら難しいと思うのに・・・・。

彼女は何も躊躇うことなく、俺の最高のボールを右中間に運んだ。

「嘘だろ!?」

その打球を目で追いかけながら、俺は叫んだ。

コイツ、まじですげえよ。
何者なんだ?

本当に小学生の打球か?

打席を見届けていた相手チームの選手が、次々にベンチから出てくる。
草太も彼女の打球を見届けるように『スタンドに入れ』と願うように、その打球を応援する。

守備側は打球をセンターの美空が追う。
しかし高い弾道でアーチを描くように打球は伸びる。

一方の俺は肩を落としていた。
打球から目を逸らし、『やっぱり俺、野球のセンスなんてない』と自分を責める。

というか、女子小学生相手にそこまで運ばれていい顔が出来るわけがない。

確か九回の裏の攻撃は俺にも打順は回ってくる。
大切な場面で打たれて、打席でも凡退したら本気で怒られるんだろうな。

来なきゃよかったかも。

「アウト!スリーアウトチェンジ!」

・・・・・・・。

・・・・は?