大きく息を吐いて、俺は再びマウンドに立つ。

ツーアウト一塁。
一塁ランナーは代走で出てきた選手だ。

当ててしまった人には後で謝りに行こう。
今は試合中だし。

打席には相手チームの四番。
相手チームの全打点を稼いだ小さな少年。

「向日葵ちゃん!頼むぜ!」

相手チームのベンチから彼を応援する声が聞こえた。
大きな声援に答えるように、彼は小さな背中を見せながら右バッターボックスに立った。

俺の友達、草太のピンチを何度も共に潜り抜けた草太の女房役。
明るい声でチームを支えたチームの要。

この子を抑えたら、俺達の攻撃が始まる。
逆に打たれたら流れは最悪になる。

・・・・・・・・。

というかコイツ、遠くからじゃ分からなかったけど結構かわいい顔してるな。
まるで女みたいな顔だ。

ヘルメッドやキャッチャーマスクで分からなかったけど髪も長いし。

というかコイツ、女じゃね?

俺はホームランだけを警戒して、初球を投げた。
のらりくらりと行く俺の棒球を少年・・・・いや少女は見送った。

判定はストライク。
俺の力のないボールを振り抜かれたら、間違いなくまたスタンドに運ばれていただろう。

同時に俺は一塁ランナーがいないことに気が付いた。
キャッチャーも知らない間にランナーは二塁に進んでいた。

どうやら二塁を盗まれたらしい。

一塁ランナーの盗塁で場面はランナー二塁のピンチに変わった。
ヒットでも二塁ランナーは帰ってくるだろう。

橙磨さんの声が後ろから聞こえる。
『気にするな』ってエールを送ってくる。
キャッチャーも『とりあえず低く』とジェスチャーを送っている。

監督の桜は俺に『なんで盗塁されてるのよ!やる気あるのか!』と野次を飛ばしている。

でもその中で、一番印象的だったのは相手チームのベンチで声を出す草太の大きな声だった。

「向日葵ちゃん!がんばって!」

見たことない笑顔と初めて聞く草太の大きな声の声援に、俺は敵ながら胸を打たれた。

何て言うか、『アイツ変わったな』って。
もう俺、必要なくね?って。

そう思うと可笑しく思えた。
思わず笑ってしまいそうだった。

アイツ、『友達いなくて、いつも一人だ』って話していたのに。