「話はよく分からないけど、迷ってる暇あったら動いた方がいいよ。今逃げたら、次のチャンスはいつになるか分からないし。もしかしたらもう会えなくなるかもしれないのに。ね、妹想いの橙磨くん」

「そこ、俺に振る?」

呆れた表情で橙磨はため息を一つ吐く。

「桃花は頑張っている。だったら僕も頑張らないと。そう思っただけ。深い意味はないよ」

そうだ。
茜も頑張っているんだ。

屋台とか何だか知らねぇけど、やったことのない料理にだって挑戦しているんだ。

っていうか、『いつまでも自分に負けていてどうする』ってさっき心の中で叫んだはず
じゃないか。

本当に口だけの男なのか?
柴田愛藍という男は。

「あと愛藍くん。『年上に敬語を使いなさい』って習わなかった?茜ちゃんだって僕に敬語使っているよ。『同じ学年だから使わなくていい』って何度も言っているのに。君と来たら。ま、正直どっちでも良いけど」

そう言って橙磨はまた笑った。

出来の悪い後輩を持ってしまったと言うような、今日何度も見せてくれた優しい笑顔に、俺は心に打たれた。

橙磨さん・・・は続ける。

「最年少は最年少らしく、馬鹿みたいに何も考えずに突っ走ったらいいのに。もちろん上の言うことはちゃんと聞いてね。じゃないとぶん殴るよ」

橙磨さんの言葉通り、その直後に桜に再び殴られた。

と言うか、急に殴るのは止めろ。
本当にビックリする。

周りも見ているし、色々問題になるだろうし。

ってかおい、なんで殴った?

「早くアウト奪って、逆転して早く帰ろ。あとはやるだけだよ。川島ダーウィンズは、ここからが勝負なんだから!」

川島ダーウィンズ。
そのダーウィンとは進化論を唱えた偉大な人物の名前から取ったらしい。

『俺たちは変われる』って、『進化する仲間だ』って桜から聞いたことがある。

だったら、俺もいい加減『進化』しないと。
変わらないと。

本当に茜に笑われる。