「てめぇ、茜の何なんだ」

橙磨は答える。

「友達だよ。クラスが一緒のただの友達。そうだね、最近はよく料理を教えているよ。あの子、本当に料理下手くそだから今度の屋台が心配で心配で。何度教えても上達しないし。ホント、手の妬ける子だ」

『やれやれ』と言っているような橙磨の優しい表情。
こんな表情、俺は茜に見せたことがあっただろうか。
そういえば俺、茜が出来ないことがあれば怒鳴っていたっけ。

悪ふざけで学校の非常ベルを押して、学校をパニックに貶めた日がある。

その日の俺は茜に非常ベルを押すよう指示した。
でもアイツは押すことを躊躇い、非常ベルは中々鳴らなかった。

見かねた俺は茜の代わりに非常ベルを押した。
そして最後『そんなことも出来ねぇのか』って茜を批難した。

もうそれが充分いじめの領域だっていうのに・・・・。

俺は茜に酷いことをしていたんだ。
ってかそれで『親友』ってよく言えたものだ。

「そろそろ自分の立ち位置くらい知っておいたら?もうすぐ大人なんだし。君も仕事してるんでしょ?いつまでもガキのままじゃ、茜ちゃんに嫌われるよ。優しくならないと。僕みたいね」

橙磨は俺の背中を叩いて、守備位置に戻る。
その彼の落ち着いた背中を見ていたら、いきなり桜に顔を殴られた。

「いって、何するんだよ!」

「打たれたら茜ちゃんに告白しなさい。『今まで好きでした。付き合ってください』って」

目の前にベンチにいたはずの桜が俺の前にいた。
今日何度も見た怒った表情で俺を見上げていた。

「つかなんでお前まで茜の事・・・・」

「橙磨くんとももちゃんの『おすすめのカフェ』でね。もう三ヶ月前になるけど、知り合いの後輩が紹介してくれたの。連絡先も知っているし」

その桜の言葉を聞いて、『茜はそんなに有名人なのか?いくらピアノが上手だからって、こんなに仲間が出来るものなのだろうか?』って思った。

まるであの頃と別人のようだ。
俺と葵が居たときから、人との関わりを避けていたというのに。

桜は続ける・・・・。

何度でも俺を励ましてくれる・・・・。