ようやく九人で戦うことが出来た俺たちは反撃に出た。
粘りのバッティングでフォアボールを選び、ヒットで繋げる。

しかしあと一本が出ない攻撃が何度も続いた。
またしても草太の粘りに負けて、俺たちは悔しい思いをする一方だった。

守りも踏ん張った。
ピッチャーは交代して、美空の後を継いだチームメイトが好投してくれた。

そして知らない間に息が合うようになった俺と橙磨の二遊間はピッチャーを何度も助け、追加点を許さなかった。

いつの間にか『楽しい』と思えるようになっていた試合は、早くも二対一の最終回を迎えた。

勝つためには『九回の裏に二点以上』もしくは最低一点をもぎ取って延長戦に繋げる。

とにかく勝つには一点は最低でも取らないと負けてしまう状況だ。

負けという言葉が大嫌いな俺は例えチームの負けでも許さなかった。
『絶対に負けるか』と、俺達は守備につく前にも円陣を組んだ。

だがその前に俺にとって、最大の山場が待っている。
「絶対にこの回を守り抜くわよ!三人でしっかり押さえて、攻撃に繋げるわよ!」

監督の言う通りだ。
まずその勝つための『九回裏』を迎えるには、守りである『九回表』を抑えないと先には進めない。

意地でも失点は許されない状況だ。

最後の守備、俺達はもうすっかり馴れた守備位置に散る。

マウンド上には川島ダーウィンズ三人目のピッチャー。
この試合ずっとセカンドを守っていた選手で、右投げの大きな体格の選手だ。

特技はピアノで、高校生ながらプロとしてもピアノを弾く有名なピアニストだ。

っておい。

「ちょっと待て!なんで俺がピッチャーなんだよ!」

俺は生まれて初めて立つマウンドから監督に向かって抗議をした。

でも監督は意味のわからないことを言ってくる。

「いいの!『最終回のマウンドは愛ちゃん』ってずっと前から決めていたから!」

いや俺、聞いてねえし。
ピッチング練習していない選手をマウンドに送るとかアホなのか?無能なのか?

「だったらそう伝えてくれよ!ピッチャーなんてやったことないぞ」

「言ったら断るでしょ?だから言わなかったの」

まあでも確かにそうだ。
当然俺は断る。

いや、だったら『断る』と分かっていて使う監督はやっぱりアホなのか?
それも勝負を分けると言っても過言ではない『九回一点ビハインド』の場面。

こんな緊迫した場面で投手未経験のピッチャーに試合を託すとか、本当にこの監督はどうかしている。