ルビコン

俺は目の前の打球を確認する。
打球は一度もグランドに着く事なく、ライナーで一二塁間を抜けようとするボールに俺は無意識に横っ飛び。

同時にグラブの中にボールの感触があるのを確めた俺は、慌てて立ち上がる。

「ショートに投げろ!」

ショートの奴の声を聞いて、俺はようやく自分のやるべきことを思い出した。

俺のグラブの中にはボールがある。
ライナーで俺はボールを掴んだのだった。

そして二塁ランナーと一塁ランナーは飛び出していた。

慌てて曖昧な野球のルールを思い出して、ショートの橙磨がいる二塁へボールを投げた。

確か野球のルールによると、ライナーで打球を捕った場合はランナーは帰塁しなければならない。
帰塁するまでにボールが塁に渡ったらアウトとなる。

俺の送球を受け取った橙磨は、軽快な動きで二塁ベースを踏むと同時にファーストにボールを投げる。
その間に二塁ランナーは帰塁出来ずにアウト。

そして一塁ランナーも同様飛び出しており、一塁ベースを踏むファーストがボールを受け取る。
その一連の動きを見ていた審判はアウトを宣告した。

更に俺が打球を掴んだ時点で、打者ランナーはアウト。
なんとプロの世界でも珍しいトリプルプレーを達成してしまった。

直後、どこからか歓声が聞こえる。

「ナイスプレー!愛藍くんやれば出来るじゃん!」

死んでいたはずの美空が、笑顔で俺の元までやって来て拳を突き出している。
未だに俺は現状に理解できず、あたふたしていると、橙磨に背中を叩かれた。

「今の動き、最高だったよ。プロの試合でも見ているようだった」

「そ、そうか?」

一つ一つ自分の行動を思い出し、俺は現状を理解する。
時間は掛かったが、ずっと拳を突き出す美空に俺は自分の拳を同様に突き出した。

そしてその拳同士が触れ合う。

川島ダーウィンズは二点を失い逆転されたが、試合の流れはこちら側だとすぐに分かった。

俺はベンチに戻ると本日二度目の祝福を受けた。
まるで勝ったかのような騒ぎに、監督の桜も嬉しそうだった。

例えば自分がファインプレーをしたように、自分の事のように桜は喜んでいた。

それが俺にはすごく嬉しくて、常に怒っていた俺はいつの間にか笑顔になっていた。

あんなに怒っていたのにどうしてだろう。
『仲間が笑ったら、自分もいつの間にか笑っている』のは何でだろう。

やっぱり仲間に囲まれているからかな?

ふと、俺はそんなことを考えていた。