試合は進んで、早くも三回の裏が終わった。
俺の初回のホームランが出てからお互い得点は生まれなかった。

緊迫した試合が続く。

一点リードの『川島ダーウィンズ』のピッチャー美空は、初回の内野安打以降ヒットを一つ許しただけで、完璧な投球を見せてくれた。

俺も異空のの熱投に答えようと、何とか一人で二塁ベースを守った。

まだ遅刻をしているショートの奴は来ていないが、『とりあえず来たら一発ぶん殴ってる』という心の支えだけで、俺はひたすら右へ左へ動いた。

相手ピッチャーの草太はランナーを許してはいるが、ピンチになる度にキャッチャーがマウンドに向かっていた。
キャッチャーの彼の一言で再三のピンチを抑えていた。

本当にいいコンビなのかもしれない。

四回表、三柳ダーウィンズは守備に位置に散る。
この回も美空は安定した投球を見せるだろうと思ったが、先頭バッターに今日初めてのフォアボール。

初めてのノーアウトのランナーを背負った。

次のバッターはチームの四番を打つ、草太を励ましていたキャッチャーの少年だ。

「ゲッツー取るから。ショート、セカンドよろしくね」

ショート？

・・・・は？

「いや、ショートまだ来てねぇし」

美空の言葉に俺は肩を落とした。
まだショートを守る奴は来ていないというのに、彼女は俺の守備に全てをかける気だ。

こうなったら意地でも一人でツーアウト取ってやる。

初球、甘く入った変化球を右打席に入る少年は見逃さない。

痛烈な弾丸ライナーはレフトポール際。
スタンドには届いたが、ポールの左。

三塁審判は両手を広げてファールと告げた。

一方その恐ろしい打球に、俺のチームメイトは息を飲んだ。

『小学生のクセに、なんだその生意気なパワーは。お前、本気でプロを目指す気か』って、誰もがそう思っただろう。

二球目、低めのストレートを見送りボール。

マウンドの美空も少し焦っているようにも見えた。
帽子を取って額の汗を拭う。

今日の美空が初めて見せた仕草だ。

三球目、厳しいコースのストレートを少年は捉えた。

鋭い打球だが、三塁ベンチに飛び込みそうな強烈なファール。

これでカウントはツーストライクと追い込んだと言うのに、何故か追い込まれたような雰囲気がした。
痛烈なファールが脳裏に焼き付いているからだろうか？

美空はまた汗を拭う。

そして四球目。

『しまった』とマウンドから聞こえる美空の声を書き消すような大きな打撃音。

誰もがその打球を目で追い行方を確かめる。
打球はレフト上空。

だがレフトは一歩も動かず見上げたまま。
打球はレフトスタンドに吸い込まれた・・・・・・・。