「それ誰?」

俺の声に桜は答える。

「言っても知らないでしょ?愛ちゃんとチームになるの初めてだと思うし」

そう言われたら、返す言葉が見つからない。

四番の美空は結局十三球も粘っていたが、最後は草太の魂の直球に打ち取られてショートゴロ。
スリーアウトで攻守交代だ。

そして、監督は気持ちを直ぐに入れ替える。

「はい、さっさと行く。守りの時間だよ」

どこから持ってきたのか分からないが、黄色いメガホンで桜は俺の尻を叩いた。

「いってーな。わかっているよ」

・・・・・。

わかっているよ。

俺は帽子を被り直し、グローブを持ってベンチを出ようとする。

でもその時、桜の小さな呟きが聞こえた。

「今日愛ちゃん呼んで良かったかも。今日勝ったら通算十勝目だし」

弱気な声に聞こえた俺は思わず鼻で笑ってしまった。

「へっ、まだ十勝しかしてねぇのかよ。何回負けたんだよ。この無能ヘボ監督」

「うるさいな!早く守備に付け!」

まるでバットを振るスイングのように、桜は俺を目掛けてメガホンを振り抜いた。

間一髪俺は避けるも、桜はその仕草で怪我をした足が痛かったのか、顔をしかめた。
無茶しやがって。

そんな桜を見て、俺は生意気な年下のように舌を出して挑発した。
『帰ったらまた怒られるかもしれない』って思ったけど、『それもまたいいかな』って思う自分もいた。

『仲間がいる』って言うことに、俺の真っ黒な心は少しだけ浄化された気がした。