「草太くん!さっきのホームランは忘れて今に集中しよ!最高のボールだったから」

俺のダチを呼ぶ名前が聞こえた。

ふとマウンドを見ると、草太と同じくらいの背丈の少年が草太の背中を叩いて慰めていた。
九人いる守備人の中で、一人だけマスクを被るを付ける少年の姿。

キャッチャーの少年はまるで光輝く太陽に見えた。
輝くほどの満面の笑みに、暖かいその元気に、敵ながら勇気を貰った気がした。

そういえば、最近草太と遊ぼうとするとよく断られる。
理由は詳しくは知らない。

草太の母に聞いたら、『最近よく外に出掛ける』って言っていた。
昼飯を食うのを忘れるほど、帰ってくるのは遅いと言っていた。

それがもし、『野球』だとしたら。
例えば『キャッチャーの彼と一緒にプロに入ろう』とか『一緒に目標を持てる仲間』だとしたら。

『野球のように九人支えられあって、初めて出来るスポーツのために草太は頑張っている』としたら、『それはすっげえ幸せなことじゃん』と俺は気が付いた。
同時に俺も幸せなんだと理解した。
茜のと関係以外は何一つ不自由ない生活だ。

『仲間がいる時点で幸せ』だと言うことに。あとは茜との関係と言う大きな山さえ乗り越えたら、俺は何一つ問題ない。

だから、もっと俺も頑張らないと。

と言うか、自分に負けてたまるか!
大切な仲間が俺を応援してくれているのに、何情けない表情を俺は浮かべているんだ!

「よっしゃあ!俺の後に続け!二者連続ホームランだ!」

腹の底から俺は叫んだ。
迷いや不安を吹き飛ばすような、大きな声援をチームメイトに送った。

キャッチャーの彼が居てくれることで、草太の人生は大きく変わる。
まるで茜が側に居てくれたから、『何もかも頑張ろう』と思えたあの頃のように。

敵なのに、俺の声を聞いた草太も『頑張ろう』と表情が変わった。
やる気に満ちた表情を見せてくれる。

「もうすぐ、あと一人来るから。それまで頑張って」

そう言う桜もいつの間にか表情も晴れていた。
俺の声で少しは元気を出してくれたのだろうか。

だとしたら俺はスッゲー嬉しいけど。