「なんだよ早く言えよ。ってか草太お前、野球やっていたんだ」

「うん。お母さんが『出来ることはなんでもやっておきなさい』って」

出来ることはなんでも・・・・か。
その草太の言葉は俺のどこか引っ掛かった。

言われて気が付いた事がある。

それは『出来るのにやらない俺はただのヘタレ』だということに。
電話くらいいつでも出来るというのに。

『俺、何やってるんだ』って自分を責めた。

俺は右バッターボックスで構えると、草太は大きく振りかぶった。
まるで野球漫画のピッチャーのように、魂こもった俺への初球だ。

決して速いとは言えないけど、バッターの手元で少しだけ曲がる。

だが少し高い。
それを俺は小学生相手だというのに大人げなくバットを振り抜いた。

金属音が球場の外にも聞こえるほど大きな打撃音を残して、あっという間に打球はバックスクリーンに吸い込まれた。

・・・・・・。

先制ホームラン。
俺達『川島ダーウィンズ』は先制パンチを喰らわせた。

打った直後、俺達一塁側ベンチから歓声が聞こえる。
美空が『ナイスバッティング』と叫んで、桜は『愛ちゃんさすが!』と言っている。

年上のチームメイトも暖かい言葉を掛けてくれる。
その言葉に押されるように、俺はダイヤモンドを一周する。

でも俺はと言うと『やってしまった』と言う一言が脳内で暴れていた。
それが俺の心の中の第一声だった・・・・・。

マウンド上の草太は小さな背中を俺に見せて、バックスクリーンを見上げていた。
打球は返ってこないというのに、俺が浮かない表情でダイヤモンドを一周する間もずっと見上げていた。

川島ダーウィンズは一点を先制した。
初回にホームランが出たことが嬉しいのか、みんな笑顔で俺を出迎えてくれた。

ハイタッチまでしてくれて、再び暖かい言葉を掛けてくれる。

でもそれが今の俺の心を締め付る・・・・・。

「なんなのさ。もっと喜んでよ」

俺の暗い表情を見た桜は、直ぐに俺の背中を押す。
でも俺は桜に怒られても、反論することしか考えてなかった。

「いやだって。相手草太だし。『頑張ろう』と自分の殻割ろうとしている草太だし」

「誰よ草太って」

言われて気が付いた。
桜から見たら、マウンド上のピッチャーはただの敵だ。

草太が相手だから、本当はわざと三振して彼を勇気づけようとしたけど、敵に花を持たせるなんて、チームで戦う人間としてあってはならない姿だ。

なんでそんなことを忘れていたのだろうか。