「こらショート!なんでアウトに出来ないのさ」

マウンドから見下ろすような美空の声に、俺は殴りかかろうかと思った。
でもぐっとその気持ちは堪える。

だが言葉は返す。

「はあ?素人にそんなこと求めんなよ。つか俺セカンドだぞ!」

「あーもう。今日こそ完全試合狙っていたのに」

美空は全く俺の話を聞いていない。

悔しそうにマウンドを蹴る彼女に、俺は『ざまあみろ』と唾を吐いた。
『いっそこのまま炎上してゴールド負けになってしまえ』って。

だが俺の希望とは裏腹に、続く四番は空振りの三振。
一回の表は無失点で守り抜いた。

ベンチに帰ると、俺は監督に怒れた。

『守備が悪い』と・・・・。
『どうしてアウトに出来ないんだ』って、無茶苦茶な事を言われた。

四人で守るはずの内野を三人で守っているというのに。

というか、『人が集まらない』って、ある意味監督の責任だろ。
俺も嫌々来たというのに、本当に帰るぞ。

休む間もなく、直ぐに俺たちの攻撃が始まった。

だが一番二番はあっさり初級を打ち上げて凡退。
ツーアウト。

ため息を吐く暇もなく、俺の打順が回ってきた・・・・。

今さらだが、相手は草野球同好会のような『昔は甲子園に出たんだぜ』とでも言いそうな中年のおっちゃんたちだった。
内野や外野を見渡しても、各家の大黒柱のようなお父さんばかり。

平均年齢は四十歳くらいだろうか。
でもその中で一番若いのは、マウンドに立つ小学生にも見える少年だった。
まだ野球を初めて間もないような、小学生五年生くらいの小さな男の子だった。

この前出会った『宮野草太』って言う男の子そっくり。

・・・・・。

「って草太?」

右バッターボックスに入る俺は呟いた。
するとマウンドに立つ少年も、俺の声に気がついて驚いていた。

「愛藍さん!驚きました」

宮野草太(ミヤノ ソウタ)。
彼は俺の友達だ。

あるきっかけで仲良くなった、年の離れた俺の大切なダチ。
彼と会ってからはよく草太を家に招いて、ピアノを教えていた。

なんでも草太の母が柴田アランの大ファンで『友達だったらタダで一流のピアニストにピアノを教えて貰えるでしょ?』ってずる賢いことを言っていた。