俺が着替えてこの場にいない間に今日のスターティングメンバーが発表された。
俺は三番セカンドだった。

俺達は後攻のため守備位置に散っていく。

二塁ベースのやや一塁寄り。
そこが俺のポジションだったが、俺はここである違和感に気付く。

「おい、ショートだれだよ?」

ショートとは俺の隣で一緒に二塁ベースを守るポジションのことだ。
三塁ベースと二塁ベースの間には誰もいない。

桜がベンチから俺に言葉を返す。

「遅刻しているから気にしないで。そのうち来るから」

「いや、ちょっと待て!俺一人で二遊間守るつもりか?これでも野球経験ないんだぞ」

「うっさいな!黙ってろ!」

監督の桜はセカンドの俺を『二塁ベースの後ろに立て』と指示を出す。

同時に一塁を守るファーストが一二塁間に。

三塁を守るサードが三遊間の変則守備シフトだった。

その内野の中心を野球素人の俺が守るだと?

ふざけやかって。絶対に守ってやる。

さっきも言ったけど、舐められたら俺は全力を出す。
『俺は舐められるような器じゃねえ』と訴える。

柴田愛藍はそういう奴だ。
『負ける』なんて言葉や『諦める』という言葉は死ぬほど嫌いだ。

球審のプレイボールという言葉が球場に広がる。
プロも試合したことがある程大きくて立派な球場だった。

ある意味こんなところに立てるなんて、俺は幸せなのかもしれない。
ピッチャーは美空。
『女で背か高くてどんな球を投げるだろう』と相手は思っているだろう。

そんな美空のボールは癖球だ。
野球経験者でも正直打つのは難しいと思っている。

美空は大きく振りかぶると次に身を縮ませ、プロのような綺麗なフォームで一球目を投げ込む。
思わず見とれしまうような綺麗な『アンダースロー』だった。

絶滅危惧種とも野球界でも言われいる『サブマリン投法』だ。
プロの世界でも一人か二人しかいないはず。

決して速いとは言えないそのボールはバッターの胸元に決まり、球審はストライクとコールをする。
テンポは良い。

アンダースローの美空は三振を奪うようなピッチャーではなく、打たせてアウトを稼ぐピッチャーだ。
変化球でバッターを詰まらせゴロを量産する。

でもそれは俺にとってはただの地獄な時間だった。

初回、持ち前のテンポの良さで二人を外野フライで抑えた美空。

続く三番バッターの打球は三遊間。
三塁ベース付近にいたサードは反応に遅れ、セカンド兼ショートの俺は全力で白球を追う。

奇跡のように打球に追い付くも、相手の足は陸上選手のように速かった。
あっという間に一塁ベース上にいるバッターを見て俺は送球を止めた。

でもそんな俺を野次る『仲間』がいる・・・・。