肌寒い気候の中、『俺は一体何をやっているんだ』と思いながら待ち合わせの場所に向かう。

わざわざ電車代まで使わせて、交通費は出してくれるのだろうか。

辿り着いた所は競技場のような場所だった。
主に野外でやるスポーツ施設が整えられた場所。

サッカー場やテニスコートに野球場など、夏期なら屋外プールもある。
専用ウェブサイトで予約していれば、誰でも楽しめるようなそんな場所だった。

俺はここの野球場に呼ばれた。
グラウンドには今から試合が行われるのか、両チーム違うユニフォームを着た選手が準備運動を行っていた。

そして俺の名前を呼ぶ女の声。

「愛ちゃんこっち!」

俺は名前を呼ばれて身震いをする。
その陽気な声に俺は振り向くと、グランドの中から俺の大嫌いな幼馴染みの女が手を振っていた。

「なんだよ呼び出して」

「いいじゃん。愛ちゃん暇なんでしょ?」

「暇じゃねえし」

目の前の人物はは俺の幼馴染みで二つ上の女子大生だった。
童顔で俺より年下にも見えるような可愛らしい表情とは裏腹に、性格の悪い悪魔のような思考の女だった。

名前は榎田桜(エノキダ サクラ)。
彼女も音楽一家で、俺と同じピアノをやっていた。

でも高校に入ると同時にあっさりビアノを辞めた。
なんでも信頼できる『親友』が出来たとか。

親友と一緒に未経験の吹奏楽部と陸上部を兼任していたみたい。
そしてその陸上部では全国大会に行ったとか。

もうめちゃくちゃな女だ。

ちなみにその親友はずっと眠っているらしい。
二年前に事故があって、ずっと目を覚まさないとか。

あと噂じゃその親友に双子の兄がいるらしい。

「はいこれ着て」

そんな桜から手渡されたのは野球のユニフォームだった。
一方の俺は理解出来ない表情を桜に見せる。

「は?俺もう辞めるって言ったよな」

「監督の私はそんなの許可した覚えはない」

『監督ねぇ・・・・。いつの間に就任したんだ』と言うのが俺の本音だった。
前回は『マネージャー』と自分のことを称していたし。

まあでも桜は足を怪我している。
野球と言う過酷なスポーツを『選手として過ごす』ということは今の桜にはとても難しい。