「へー、そんなにスゲーんだ」

「愛藍も見に来いよ。俺の引退試合。山村の妹も出るから」

「まあ山村の妹はともかく、お前が出るんだったら俺は行くつもりだ。約束したし」

「約束?なにそれ」

ふざけた葵の声に、俺は耳に当てている携帯電話を壁に投げつけようかと思った。

「お前も茜と同じで忘れたのか?小三の遠足のお前の言葉。ぶんなぐ」

「あーはいはい。忘れるわけねえだろ」

葵の言葉を訊いた俺は、出かけていた言葉を飲み込んだ。

一方の葵は冷静だった。
まるで俺を試していたような落ち着いた声。

だから俺は悔しさをにじませながら呟く。

「忘れかけてたくせに」

「まあまあ。あと山村妹が言っていた情報だけど、『茜が屋台出す』って言ってたよ」

屋台?
茜が?

なにやってんだ?

それが最初に出てきた俺の心の声だった。

葵は俺の言葉を待たずに続ける。

「なんでも俺がたまに行くカフェの屋台らしい。パンケーキバーガー?ってのを作るらしい」

「パンケーキバーガー?」

「俺もよく知らない。ってか一緒に行くか?」

その葵の言葉に、俺は思わず笑ってしまった。

「ははっ。俺はいいけど、葵は耐えれるのか?茜見たら、昔の出来事が脳裏に浮かび上がるんだろ?まだ辛くて現実に目を当てられないくせに」

「うっさいな。冗談に決まってんだろ」

「でも冗談でもそんなことを言えるなら、お前はアイツと仲直り出来ると思うけどな」

俺は出来なかったけど、葵なら出来る。
俺より茜の事を想っていたし。

でも葵は俺の言葉を否定する。

「そんな簡単に仲直り出来たら、俺も愛藍も苦労してねえよ」

「だな」

俺は鼻で笑ってしまった。
葵が茜と復縁出来ていたら、俺もこんな風に隠れていない。

同時に俺の胸は、締め付けられるように苦しかった。

あの頃を少し思い出したから・・・・。