十一月になった。
夏は緑色に染まる木々の葉が、今は少しずつ真っ赤に染まる紅葉に変わっていた。

それがまた綺麗で黒く染まる俺の心を浄化してくれる気がして・・・・。
『アイツとこんな綺麗な景色を見れたら、俺はどんな表情をするんだろう』って俺は思った。

今日は土曜日で学校は休み。

同時にピアニスト『柴田アラン』としてもオフの日だ。
予定もないし、いつものようにピアノの勉強をしたいのだが、俺は携帯電話に映る『桑原茜』の名前をただ眺めていた。

それを見ているだけで時間が進んで、今日の時間が無駄に削られる。
『いい加減ケリをつけないと』って思うけど、ヘタレな俺には、一歩踏み出す勇気が出ない。

体や態度はデカイ俺だけど、心は豆腐のように柔い柴田愛藍だ。
『自分は常に誰かの上なんだ』と思わないと生きていけない最低野郎だ。

同時に『俺は何様なんだ』といつも思わされる。
その『ふざけたプライド』を維持するのに勇気を使うんじゃなくて、『大切な人を守るために使えよ』っていつも心では思う。

そんな中、携帯電話の画面が女の子の名前から俺の悪友の名前に変わった。
取らない理由もないので、俺はすぐに電話に出た。

「あ?どうした?」

相手の声は直ぐに聞こえた。

「愛藍?久しぶり。元気?葵だけど」

元気のない悪友の江島葵(エノシマ アオイ)の声に、俺は不安に思った。

「どうした葵?ってか元気ねぇじゃん」

「うーん。再来週の秋祭り、踊れるかなって」

その葵の言葉に、俺は違和感を感じた。

俺は少し間を置いてから答える。

「なんだよ、葵らしくねぇな。弱気になるなんて珍しいな」

そうだ。
コイツは元々強気がウリだった少年だ。

茜の事が気なる上級生に喧嘩売ったのも、葵が言い出したことだ。

その葵は暗い声で答える。

「思ったより膝が良くなくて。手術も考えている」

「まじか」

「って言いたいけど、うちにはそんな金ねえよ」

「でもお前、ダンスで食っていきたいんだろ?」

直後、俺は『しまった』と渋い表情を浮かべて唇を噛み締める。
理由は葵を傷付ける事を言ってしまった気がするから。

そして案の定葵は、現実を語りだした。
辛そうな声で俺に話してくれる。

「無理だよ。ダンスで頑張ろうと思ったら実家の花屋はどうなる?」

「どうなるって」

俺は考えた。
考えたけど何も浮かばなかった。