携帯電話の電話帳。
そこに表示されている『桑原茜』という文字を見ると、俺はいつも胸が騒ぐ。

俺は『あいつに許してもらったんだろうか』って、いつも思う。

夏休みの終わり、俺『柴田愛藍(シバタ アラン)』は茜と会った。
楽器屋に行ったら、偶々アイツがいた。

その時はチャンスだと思った。
『茜に謝れる日が来たんだ』って素直に思った。

心の底でピアノよりも練習してきた『ごめんなさい』の一言を言う日が訪れたのだって・・・・・。

俺は全てを反省して、頭を地面につけて茜に謝罪した。
土下座をしたから偉いとか、そういうつもりはないけど、あの様子じゃ茜に許してもらえてないだろうな。

あの日から茜から連絡が一切来ないと言うのが、何よりの証拠だ。
同時に茜には会っていないし、声も聞いていない。

だから俺は茜と会おうと何度も試みて、茜に連絡をしようと決めた。
向こうから連絡してこないのなら、俺から声を掛けようと決意した。

携帯電話の電話帳に記載された『桑原茜』の文字を押すと、茜に電話が繋がるというのに。
俺は何度も躊躇った・・・・・。

理由は、やっぱり怖いから。
今でも茜の顔を見たら、幼い時の茜の辛い表情が脳裏に再生されて、俺はすぐに停止ボタンを押してしまう。

『俺には茜に会う資格なんてないんだろう』と考えさせられる。

そしてそれは今日も同じだ。

いつもと同じで、アイツに会いたいけど、会う勇気が出ない・・・・・・。