不思議な空間だった。
みんな笑って、楽しそうな声を出す。

同時に僕は自身の楽しかったか日々を思い出していた。

それは僕と瑠璃が麦の家で遊んだ日々のこと。
優しい麦のお母さんは僕たちの為に苺のショートケーキを用意してくれた。

でも麦のショートケーキだけ苺が乗ってなくて、瑠璃は優しく自分の苺を麦に渡していたっけ。

でも麦は『瑠璃はお客さんだから』という理由で苺を返却した。
それでも引かない瑠璃に僕は怒って、瑠璃の苺を僕が食べた。

そしたら麦は笑って、瑠璃はすごく怒っていた。
その瑠璃の表情が面白くて、僕と麦はずっと笑い続けた。

笑う僕たちを見て最後は瑠璃も笑った。

それが友達や親友なのだろうか。
『一緒に笑うだけで充分友達だ』って誰かが言った気がするけど。

・・・・・・。

だとしたら、僕は最後に笑ったのはいつだろうか。
それこそ麦の家で笑ったのが最後じゃないだろうか。

麦は元気にしているのだろうか。
今どこで、何をしているのだろうか。

連絡先も住んでいる場所も、僕は知らない。

また会いたい。
親友と笑いたい。

でももう彼とは会うこともない。
会ったとしても、彼は僕のことを忘れているのではないだろうか。

・・・・・・。

思い出って残酷だ。
少しでも悪い方に傾けば、それは自分を傷付ける『凶器』になる。

あんなに仲の良かった瑠璃と撮った写真も、今では彼女の顔にマジックでバツマークを書き込みたいと思ってしまう自分がいる。

あんなに楽しかったのに、『これじゃあ最初から仲良くしない方が幸せじゃないか』って僕は思ってしまった。
だからこの空間も、いつの間にか辛く感じて、僕は堪えていた涙が溢れ出してしまった。

お姉ちゃんは僕の異変に直ぐに気がつく。

「ちょっとこっちゃん?なんで今泣くの?えっ?」

お姉ちゃんはそう言うけど、この関係も急に出来たものだ。
ちょっと前では、僕はここにいる殆どの顔を知らなかった。

『簡単に友達関係が築ける』ってそれはつまり、『簡単に友達関係が壊れる』という意味じゃないだろうか。
思い出も何もないから、ふとした出来事で跡形もなく消えてしまうんじゃないだろうか。

嫌だ。
それだけは絶対に嫌だ。

死んでも手放したくない。
ここから離れたくない。
なんでお姉ちゃんは来年から居なくなるんだろう。
『自分の夢だ』と言うけど、僕はどうなるのだろうか。

みんな就職や進学して、ここから居なくなる。
もうみんなと会うことは無くなるかもしれない。

『誰かに支えてもらったらいい』って樹々さんは言うけど、その通りだと僕は思う。

そして僕はワガママだ。
僕はこの人達に支えられたい。

ずっと『友達』と一緒にいたい。

離れるのだけは、絶対にいやだ。
本当にいやだ。

やっと掴んだ幸せなのに、『時間』という言葉一つで離れるのは絶対に間違っている!

そんなの、おかしいよ・・・・。

「紗季ちゃん。このまま畳み掛けようよ。もういいとおもうし」

「うん。そうだね」

僕が泣き続ける中、お姉ちゃんは城崎さんに合図を送っていた。
それが何を意味するか分からなく、気がついたら目の前が真っ暗になって。

突然目の前にオレンジ色に輝く十三本のロウソクが光っていて。