暫く父は仕事で帰ってこないって言っていた。
確かもうすぐで選挙だと言っていた。

まあでもいない方がスッキリするしちょうどいいかも。

母は最近は帰りが遅い。
日付が変わってから帰ってくるなど、本当に仕事終わりなのだろうかと疑ってしまう。

まあでも仮に浮気とかしていても興味ないかも。
どうでもいいかも。

お姉ちゃんは最近は忙しいみたいだ。
なんでも来月の祭りで出す屋台のメニューをいつものみんなで考えているとか。

試作も兼ねて、色々忙しいみた。
まあでも発作で倒れなければ何をやっても文句言わないけど。

そんな家族として成り立っているのか分からない、我が山村家の玄関を開ける。
家にはお姉ちゃんしかいないんだ。

返事や掛け声にはうるさい父はいないと確信し、僕は小さな声で『ただいま』と呟く。

すると大きな足音と共にリビングから影が見えた。
それをずっと見ていたら怒ったような表情で僕を睨み付けているお姉ちゃんが顔を出した。

どうしてお姉ちゃんが怒っているのかは知らない。

強いて言うなら帰りが遅かったから?
時間は七時半を回っている。

「こっちゃん、どこ行ってたの?」

お姉ちゃんの言葉に『嘘はよくない』と分かりつつも、僕は嘘を考える。

よく考えたら『異性の先生の車に乗って放課後にどこかに行っていた』って事を話したら、めんどくさい事になりそうだと思った。
仮に烏羽先生の手のひらで踊らされて騙されているとしても、烏羽先生の首を締めるようなことはしたくない。

だから、僕は嘘を付く。

「友達と遊んでいた」

「じゃあなんで連絡しないの?『遅くなる日は連絡して』っていつも言っているよね?」

その言葉はもう完全に母のような言葉だ。

まだ十八歳だと言うのに『僕はこんな高校三年生にはなりたくない』と、関係ないことを考えてしまった。

「電池切れていたの。仕方ないじゃん」

冷静に言葉を一つ一つ考える。
それでもお姉ちゃんの表情は変わらない。

腕を組んで『本当の事を言わないと晩ご飯は抜き』と言っている優しい母のように。

でもさきねぇがお母さんだったら、僕は幸せだったかも。

本当の事を言わないと僕やお姉ちゃんはいつも両親に殴られていた。
心優しいお姉ちゃんがお母さんだったら、そんなことは絶対にしないだろう。

お姉ちゃんは誰に似たのか分からないけど、他人を第一に考える優しいイイ人だし。

でも今は敵だ。