「だから、悪に対抗する手段は『相手の悪を絶望させる、『さらに悪い悪』を見せつける』ことだと俺は思う。負けた悪は『恐怖』と言う言葉が脳裏に張り付いて、再起することが出来ない。極道という悪が存在する理由は、ある意味そういう理由だ。考えてみろ、単純に『悪』って言葉は怖いだろ?」

悪は確かに怖い。
瑠璃や砂田、そして麦や僕をいじめていた奴のことを悪で例えるなら、正直言って怖い。

今では顔を会わせるのも怖い。
だって何されるか分からないし。

「悪いことをするやつに、『正義』という言葉で殴っても悪には聞かない。そもそもそいつに『正義』という言葉をねじ込んでも意味ねえし、今さら正義の言葉なんて信じねぇと思うし。だからこそ、そういう奴には悪を見せつけてやればいいんだ。腰の抜けそうな、目の前の恐怖という悪をな。そうすれば絶対に世の中は平和になる。正義は変に悪を助けようとするから、こうなるんだ。犯罪者が逮捕されて刑務所入っても、また犯罪を繰り返すのは、ある意味そういう理由だ。まあ、死刑は別だけどな」

だから、烏羽先生は『瑠璃に悪を見せつけてやればいい』と言っているのだろうか。
リーダーは悪だから、烏羽先生は『スカイパイレーツ』という悪の対応を見せたのだろうか。

でも、そんなこと許されるのだろうか。

「これが俺が悪を支持する理論だ。意外と世界を救うのは悪役なのかもしれねぇそ。どうだ?納得したか?って、するわけねぇよな」

当たり前だ。
そんな意味の分からない言葉を並べても、僕は納得しない。

何より烏羽先生の言葉の意味がよく分からない。
さっきから何馬鹿な事を言っているんだ。

それに『悪だから』と言って簡単に見捨てるのも変な話。
お人好しと思われるかもしれないけど、悪は困っているはずだ。

だったら優しく助けてあげるのが正義の役割じゃないのだろうか。

僕は不満げな表情を浮かべていると、何故か突然烏羽先生の表情が曇る。
怒っている時とは違う悲しげな、どこか寂しそうな烏羽先生の表情に、僕は目を疑った。

「『カラスのような不気味な先生だ』とか言われているが、俺は全然構わないよ。お前がいじめから解放されるなら、俺は悪にだってなってやる。『山村や若槻が可哀想』とか、そんなことを言っておきながら何もしない奴。『助けたら自分がいじめられる』とか、自分の立場を守るだけの奴等は本当の悪だ。人の形をした、人の心を持たない化け物だ!目の前で『助けて』って言っている子を見捨てる方が悪だろうがよ!」

力強い烏羽先生の言葉が車内に響く。
直後悔しそうに、烏羽先生は唇を噛むと再び音楽を付けた。

多分気を紛らわせたのだろう。