烏羽先生の車に乗って、僕達は再び夜の街を走る。

来たときと同じように車内に音楽が鳴り響き、烏羽先生と助手席に座るリーダーは何か話していた。

理解しようと話を聞いていたが、ダンスの専門用語に僕の頭はパンクして、また外の景色を眺めていた。

僕の家の方が遠いのか、先に降りたのはリーダーだった。

彼の家は花屋さんのようだ。
看板の電気は消えていて、もう店は閉まってはいるが半開きのシャッターの中はまだ明るかった。

きっとまだ誰かが店内で仕事をしているのだろう。

「すいません、烏羽先生。ありがとうございます」

「おう。早く膝治せよ。最後のダンスになるかもしれねぇのに。無様な姿だけは見せるんじゃねぇよ」

烏羽先生のエールに、リーダーは苦笑いを浮かべた。
そしてリーダーは『江島生花店』と書かれた看板のある一軒家の玄関を彼は開けた。

リーダーが家に入ったのを確認した烏羽先生は再び車を走らせると同時に、重いため息を吐いた。

それはまるで今日の授業のため息のように。
封印を解く呪文のように。

烏羽先生の表情が変わった。
少し真面目な話をするような、引き締まったような烏羽先生の表情がルームミラーに写った。

「葵も変わったな。最初は言うことの聞かねぇクソガキだったのに。成長したぜ」

烏羽先生が口に出した聞き慣れない名前を聞いて、僕はようやく聞きそびれた彼の名前を思い出した。