「潤ちゃん、からかうのは程々にしておけよ。山村もきっと緊張しているんだから」

「へーい」

そう言って潤さんは僕から離れると、音楽が止まって指示を待つ生徒達の元へ向かう。

「はい休憩入るよ。十分後にまた今のフォーメーションからスタートするよ。あと今の動き良かったから、みんな忘れないでね」

よくわからないけど、指導者としてはすごい人なんだと思った。
何も疑わずに大きな返事を返す生徒達の姿を見て、僕はそう思った。

同時にこの先生は『生徒から信頼されている』と僕は感じた。
なんとなくだけど・・・。

「ってあれ?リーダーは?」

周囲を見渡す烏羽先生は潤さんに問い掛ける。

「あぁ、トイレいってんじゃないっすか?『腹痛い』とか、『踊りたくない』とか言ってましたし」

「テキトーだなお前も。大丈夫か?」

烏羽先生の言う通り、潤さんは『人としては少し難しい人』なんだと思った。
なんのことか分からないような、まるで烏羽先生の言葉を聞いていないような。

指導者の立場ながら、『自分には関係ない』と言っているような。
少しいい加減な人のようだ。

本当に生徒はこの先生のことを信頼しているのだろうか?

「あ、烏羽先生、こんばんは。お疲れさまです」

その少年の声に僕は振り返る。
そこには背の高い高校生くらいの男性が立っていた。

烏羽先生も目当ての人物を見つけたのか、笑みをこぼす。

「おうリーダー。どうした?調子悪いのか?」

「いや、膝悪くて。本番前ですし、あんまり無理はしないでおこうかなって」

「そうか・・・・無理すんなよ」

いつの間にか、僕は彼の顔に見とれていた。
『モデルみたいでカッコいい』と、そんなことを思ってしまった。

家の近くにこんな人が居たなんて知らなかった。

「えっと」

ふと彼と目が合って、僕は彼から目を逸らした。
直後、ものすごい恥ずかしさが込み上げてきた。

何でだろう。
こんなの初めてだ。

そんな僕を烏羽先生が助けてくれる。

「おう、そうだった。喜べ、コイツが来てくれたから今年はどうにかなるぞ」

「へぇ、入会希望者ですか。嬉しいですね」

彼はそう言うと、僕を見て笑った。
『ようこそ』と言っているような優しい表情。

でも僕は彼の顔を見ることが出来なかった。

「コイツは山村小緑。生意気だけど、気が強いしっかり者だ。まあ仲良くしてあげてくれ」

貶しているのか分からない僕の紹介の言葉に、僕は烏羽先生を横目で睨んだ。

「んで、コイツはリーダーの・・・・・」

その時、彼の名前は生徒達の声が混ざってうまく聞き取れなかった。

えっと、何島さんだっけ・・・?