僕は烏羽先生の歌声を聞きながら、暗闇に変わる夜の街を眺めていた。

街灯の少ない僕の街。
有名な街じゃなし、田舎と言うこともあって何もない街。

だけど僕は大好きだ。
飽きたなんて思ったことない。

大好きな人と過ごしているから、この街の事も好きなのかな?車は更に走りだし約十分。

着いた場所は大きな民家だった。
部屋の中を一望出来る大きな窓からは、僕より小さな少年少女から僕より年上の中学生や高校生が踊っている姿が見えた。

ダンスなんて見たことないから上手か下手かは分からないけど、笑顔で踊るその姿は『とても楽しそうだ』ということは伝わってきた。
烏羽先生もみんなに会うのが楽しみなのか表情が緩んでいた。

烏羽先生が入り口の玄関を開けると、ポップな音楽が鳴り響いていた。
それに合わせて激しいダンスを見せる生徒達に、僕は一瞬で心を奪われた。

その生徒達を指揮するのは頭にタオルを巻いて、紺色のジャージ姿の女性だった。
真剣な表情を浮かべて、どこか怖そうな背の高い人だった。

見た目も若い。
まだ二十代前半だろうか。

大学生にも見える。

その指導者は僕らの存在に気が付いた。
僕を見て一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに歓迎してくれるような優しい顔に変わった。

烏羽先生も指導者に笑みを見せる。

「おつかれさん。潤ちゃん」

「お疲れっす」

不思議な雰囲気の人だ。
ダンス指導している時は怖そうな人にも見えたが、おっとりしていた。

目はどちらかと言うと垂れ目で、落ち着いた不思議な雰囲気の持ち主。
僕は初めて出会うタイプの人間かもしれないと思い、気を引き締めた。

その人の視線はは僕に視線が移る。

「カラスさんの彼女っすか?エライ年下っすね。ロリコンっすか?捕まりますよ」

「アホ。そんな訳ねぇだろ。教え子だ。来月の祭り、手伝ってもらうと考えている」

「ほぉ」

まるで不思議な生き物を見るように、彼女は僕の顔や身体を上から下まで舐め回すように見ていた。
気持ち悪い変な人だ。

「エライちびっすね。大丈夫っすか?」

喧嘩を売ってきたのだと思い、僕は彼女を睨んだ。
まさかここにも『敵』が居るとは。

少し怒りを感じた僕は言葉を返す。

「チビ言うな」

「うぉっ怒った!怒った顔、結構可愛いね。アンタ名前は?」

「山村小緑」

「うぉっ!こっちゃんね。よし、入会を認める。俺は潤(ジュン)ちゃん。潤ちゃんって呼んでね」

さっきから馴れ馴れしい人だ。
僕を疑わずに、まるで拾ってきた猫を飼い慣らそうとしているようで僕は変な気分だった。

でも烏羽先生が助けてくれる。