「なんだよ、そんな間抜け面しやがって。あっそう言えばお前体育の成績良かったよな」

なんでこの流れで体育の話になるだと思ったが、烏羽先生は何かを思い出したように続けた。

「そうだ山村。今日の放課後空いてねぇか?っか頼みがあるんだけど」

嫌な予感がした。
忘れかけようとしたが、この人は不気味な先生だ。

何を考えているか分からないから、『海外へ人身売買』とか平気でやりそうだ。
裏では『変な組織と繋がっている』とか。

『怪しい人の頼みは聞いてはダメだ』と、母に教わった記憶がある。
それに帰ったらマーロンの続きをしたいのに。僕にそんな余裕はない。お姉ちゃんと勉強もあるのに。

というか話が強引すぎる。
どうしていきなり『僕の体育の成績の話』になるんだ?

まるでその頼みが本題のように。
残り少ない昼休みの時間を計り、烏羽先生は畳み掛けるように。

だから僕は否定する。

「嫌です!『まともじゃない人間の悩みは国民を困らせる』って、お父さんが言っていました。烏羽先生は『国民の敵』です!」

「おまっ、俺を何だと思っているんだ!つかお前の父さん、何を訳のわからない事を娘に言っているんだ。今度の選挙は絶対に票を入れないからな!結構支持していたのに」

そう言った烏羽先生は自分を取り戻すように大きなため息を吐いた。

そしてまた優しそうな表情に変わった。

この人の心は本当に読めない・・・・。