「なあ山村。もしかして俺、お前の姉ちゃん知っているかも」

小さく呟く烏羽先生の言葉に、僕は食い付くように驚いた表情を見せた。

「えっ、知っているんですか？」

「いや、昔そんな名前の生徒居たようなって記憶だけ」

「そうですか・・・・」

そんなもんだろうと僕は息を吐いた。

確かにここはお姉ちゃんも通っていた中学校。
『もしかしたら』って思ったが、烏羽先生は今年になって転任された先生だ。

お姉ちゃんが卒業したのは三年前。知る余地もないだろう。

「十章の最後の選択肢、下ボタンを七回、左ボタンを三回押してみろ。そしたら新しい選択肢でるから」

一瞬なんの事かと思ったが、僕はすぐに理解した。
『ゲームの話をしていたんだった』と僕は思い出した。

「えっ、本当ですか？」

「ああ間違いねぇ。っかこのゲーム発売されて十年近く経つだろ？最近だよ。そのゲームにハッピーエンドがあるって知ったのは。当時はみんな呆気なくアーロンに殺られるから、『クソゲーだー』とか言っていたけど、どうやらクソゲーじゃなかったみたいだ。十年経って、『ようやくクソゲーじゃなかった』って証明された」

その烏羽先生の言葉に僕は頷き、驚いた。
子供のような表情で話す烏羽先生の顔を見て、僕がこのゲームを愛する理由が何となく分かった気がした。

負けず嫌いの僕は、悪役に殺られる主人公を放っておけず、ずっと気にかけていた。
いつも大人しいマークだけど、事件や謎解きになると別人のような明るい人格になるマークの姿に僕は親近感を抱いていたのだろう。

普段の僕は大人しいが、茜さんやお姉ちゃん達と一緒に居るときは本当の『明るい自分』を現す僕はマークと同じだと思った。

だから僕はこのゲームが好きなんだろう。
まるて自分がゲームの中の主人公のように。

茜さん達がいる場所が大好きなんだってことに。

「そ、そうなんですか。知らなかったです」

「でもここ、『学校』って言うこと忘れんなよ」

僕の言葉の後、烏羽先生はまた笑った。
さっきの子供のような表情ではなく、まるで人を小馬鹿にするような不気味な表情。

同時に僕は胸をナイフで刺されたような、罠に嵌まったような哀れな気分に落ちた。

そして反論した。