「か、烏羽先生!ど、どうしてここに?」

「いやー、俺もお前と一緒の理由だよ。ほら」

そう言って、烏羽先生はズボンのポケットから僕と色違いのゲーム機を取り出した。

いや、ちょっと待って。
どうして烏羽先生がここに?

って言うかアンタ、生徒指導部の先生じゃん。
そんな人に見つかったらゲームは機没収され、反省文とか親に連絡とか、それなりの処罰があるはず。

あと立ち入り禁止区域だし。
立ち入り禁止区域に入っただけで怒られるって言うのに・・・・・。

でもそんなことより仕事を放ったらかして、『教師が学校の昼休みに生徒と一緒にゲームをする』ってあり得ないでしょ。
見つかったら絶対にもっと偉い先生に怒られるでしょ!

意味わかんない・・。

様々な言葉が僕の頭の中をさまよい、僕は混乱する。

そして噂通り、不気味な先生だと改めて思わされた。

「マーロン、やっぱハマるよね。俺も大好きでさ。何年前だ?大学生くらいからやっているな。全然飽きねぇよ」

「ま、マーロン?」

「何だよ、知らねぇのか?マークVSアーロンを略してマーロン。ファンなら常識だぞ」

本当に数分前に瑠璃に怒っていた先生なのだろうか。
まるで高校生のような無邪気な笑顔を浮かべて話す烏羽先生に、僕は頭の中が更に混乱した。

でも烏羽先生は僕を見て優しい笑みを見せてくれる。
「んで、山村はクリアしたのか?」

クリア・・・・。
マーロンのことか。

「してないです。って言うかクソゲーですよ。なんでマークが死ぬバッドエンドしか無いんですか?」

それが何年もかけて出した僕の答えだ。
たかがゲームの話なのに、胸が熱くなるのはどうしてだろう。

苦手な先生が相手だというのに。

「バッドエンドって、お前ちゃんと選択肢選んでいるか?」

「選択肢ですか?全部選んでますよ。さきねぇ・・・・あっいや、お姉ちゃんと一緒にやりましたし。それでも先に進めなかったですし」

僕の言葉に、驚いた表情を烏羽先生は見せた。

「へぇ、山村に姉いるだ。なんか意外だな。姉じゃくて兄がいそうなイメージなのに」

その言葉の意味を僕は分からなかった。
分からないからお姉ちゃんを否定されたと勘違いしてしまった。

だから反論した。

「紗季姉ちゃんは身体の弱いけど気の強い女です。男じゃないです」

言って気が付いた。
『何かが違う』って。

一方の烏羽先生はムキになる僕を見てまた笑った。
優しそうな笑顔で僕を包んでくれた。

と言うか、優しくしてくれたり生徒を蹴落としたり、この人の心はどんな形をしているのだろうか。
どんな色をしているのだろうか。

一緒に居れば居るほど『不思議な気分』にさせてくれる、『不思議な先生』だと僕は思わされた。