ルビコン

食欲のなかった僕は、殆ど学校給食を残した。
担任の先生に保健室を勧められたが、僕はそれを拒んだ。

理由は特にない。

昼休みになったら僕は瑠璃に見つからないように、速やかに外へ繋がる非常階段に向かった。
ここも屋上と同じで立ち入り禁止区域だが、そもそも周囲に人はいない。

『誰にもバレないだろう』と、僕はようやく一息着くことが出来た。
が、思ったより外は寒かった。

最近は秋雨が続いて不安定な天候だが、今日は晴れていた。
雲が目立つが久しぶりに広がる青い空に、僕は内心ホッとした。

まるで今の僕みたいだと思ったから。

瑠璃からいじめられているときは土砂降りの雨。
何もなく今のように落ち着いた時間を過ごせるのが太陽の出ている晴れ模様だ。

晴れていると暖かいし気持ちがいい。
そしてまた今夜から雨が降るらしい。

僕が教室に戻ったら、瑠璃の攻撃がまた始まるのだろう。
そんな僕は『今のこの時間に何か出来ることは無いのだろうか?』と考えた。

例えば晴れの日に洗濯物を乾かしたり、外に出掛けたり。
この落ち着いた時間の間に、今しか出来ないことは無いのだろうか。

考えていたけど、気を抜くことを一番に考えてしまって、『どうでもいい』と思ってしまった。
同時に制服の内ポケットにゲームを潜ませているんだったと思い出す。

本来学校に必要ないものは持ち込み禁止だ。
でも誰も見ていないのだったら問題ないだろう。

隠れて悪いことをやっても、バレないなら大丈夫だろう。

そんな軽い気持ちで僕はゲーム機の電源を付ける。
入っているソフトは僕の大好きな『マークVSアーロン』だ。

これをして、少し元気になろう。
またアーロンに対して怒りを露にしたら、今の気持ちも少しは紛らわすことも出来るだろう。

あと少しで今日の授業が終わる。
帰ったらお姉ちゃんに励ましてもらいながら、勉強を教えてもらおう。

そしたらまた『明日』も頑張れる。

・・・・・・・。

明日『も』って、また今日みたいな日が続くのだろうか。
当たり前のように机に落書きされて、当たり前のように靴や上履きを捨てられ、当たり前のように暴力を振るってくるのだろうか。

明日だけじゃない。
明後日も、その次の日も、そのまた次の日も。

これが毎日。

というか、よく考えたらこの生活を僕は二年間も近く歩んで来たんだ。
よく耐えているのだと、振り返って思った。

いや、二年経ってどうして変わらないのだろう。
『変わらない』って事は、『ずっと続く』って意味じゃないだろうか。

『ずっと続く』って事だったら、それは『いつになったら終わるんだろうか』と僕は思った。
正直言って、今ですら耐えられない。
出来ることなら瑠璃に反撃して、『もうするな』と叫びたい。

でもそれじゃあ何にも解決にならないし、なりより僕がそれを望んでいない。